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宇宙活動法改正に向けた動き(その1)

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I. はじめに

人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律(平成28年法律第76号)(以下「宇宙活動法」という。)は日本の宇宙ビジネスの基本法である。

この宇宙活動法について、第118回宇宙政策委員会の会合(2025年5月21日開催)において、委員から「今後、現行の『宇宙活動法』では対応できない幅広い宇宙活動の形態が見込まれることから、宇宙活動法改正案については遅れずに次期通常国会への提出を目指してほしい」との意見が出された[1]

また、第32回宇宙開発戦略本部の会合(2025年5月30日開催)において、宇宙開発戦略本部の本部長を務める石破総理は「民間企業による新たな宇宙輸送手法の開発に迅速に対応するため、宇宙活動法の改正法案を次期通常国会に提出することを目指す」と発言した[2]

こうした状況を踏まえ、骨太の方針2025において「民間企業の新たな宇宙輸送を可能とする宇宙活動法改正案の次期通常国会への提出を目指す」ことが決定された(なお、次期通常国会の召集日は2026年1月24日、会期は150日となることが予定されている[3]。)。

このように、政府は、民間企業による新たな宇宙輸送をはじめとする幅広い宇宙活動への対応を可能にするべく、早期に宇宙活動法を改正することを目指しており、同法の改正案は2026年の通常国会に提出される可能性が高い。

そこで、本稿から数回にわたり、現在議論されている宇宙活動法の改正案や、宇宙活動法改正に向けた近時の動きを概説する。

II. 宇宙活動法の概要

宇宙活動法は2018年11月に施行された法律であり、日本の宇宙ビジネスの基本法といえる。

宇宙活動法の概要は以下のとおりであり、①人工衛星等の打上げに係る許可制度、②人工衛星の管理に係る許可制度、及び③第三者損害賠償制度を定めている。

項目

内容

定義

人工衛星

(2条2号)

地球を回る軌道若しくはその外に投入し、又は地球以外の天体上に配置して使用する人工の物体

人工衛星等

(2条3号)

人工衛星及びその打上げ用ロケット

打上げ施設

(2条4号)

人工衛星の打上げ用ロケットを発射する機能を有する施設

人工衛星等の打上げ

(2条5号)

自ら又は他の者が管理し、及び運営する打上げ施設を用いて、人工衛星の打上げ用ロケットに人工衛星を搭載した上で、これを発射して加速し、一定の速度及び高度に達した時点で当該人工衛星を分離すること

ロケット落下等損害

(2条8号)

人工衛星の打上げ用ロケットが発射された後の全部若しくは一部の人工衛星が正常に分離されていない状態における人工衛星等又は全部の人工衛星が正常に分離された後の人工衛星の打上げ用ロケットの落下、衝突又は爆発により、地表若しくは水面又は飛行中の航空機その他の飛しょう体において人の生命、身体又は財産に生じた損害(①当該人工衛星等の打上げを行う者の従業者並びに②当該人工衛星等の打上げの用に供された資材その他の物品又は役務の提供をした者及びその従業者がその業務上受けた損害を除く。)

ロケット落下等損害賠償責任保険契約[4]

(2条9号)

人工衛星等の打上げを行う者のロケット落下等損害(特定ロケット落下等損害を除く。)の賠償の責任が発生した場合において、これをその者が賠償することにより生ずる損失を保険者が埋めることを約し、保険契約者が保険者に保険料を支払うことを約する契約

特定ロケット落下等損害

(2条9号)

テロリズムの行為や戦争、暴動等による著しい社会秩序の混乱等を主たる原因とする人工衛星等の落下、衝突又は爆発によるロケット落下等損害

ロケット落下等損害賠償補償契約

(2条10号)

人工衛星等の打上げを行う者のロケット落下等損害の賠償の責任が発生した場合において、ロケット落下等損害賠償責任保険契約その他のロケット落下等損害を賠償するための措置によっては埋めることができないロケット落下等損害をその者が賠償することにより生ずる損失を政府が補償することを約する契約

人工衛星落下等損害

(2条11号)

人工衛星の打上げ用ロケットから正常に分離された人工衛星の落下又は爆発により、地表若しくは水面又は飛行中の航空機その他の飛しょう体において人の生命、身体又は財産に生じた損害(当該人工衛星の管理を行う者の従業者がその業務上受けた損害を除く。)

人工衛星等の打上げに係る許可制度

許可

(4条1項)

国内に所在し、又は日本国籍を有する船舶若しくは航空機に搭載された打上げ施設を用いて人工衛星等の打上げを行おうとする者は、その都度、内閣総理大臣の許可を受けなければならない。

許可の基準

(6条)

以下のいずれも満たしている場合にのみ、人工衛星等の打上げに係る許可を受けることができる。

① 人工衛星の打上げ用ロケットの設計がその飛行経路及び打上げ施設の周辺の安全を確保するための内閣府令で定める基準に適合していること

② 打上げ施設が人工衛星の打上げ用ロケットの飛行経路及び打上げ施設の周辺の安全を確保するための内閣府令で定める基準に適合していること

③ ロケット打上げ計画において、人工衛星の打上げ用ロケットの飛行経路及び打上げ施設の周辺の安全を確保する方法が定められていること及び当該ロケット打上げ計画を実行する十分な能力を有すること

④ 人工衛星の利用の目的及び方法が宇宙基本法(平成20年法律第43号)の基本理念に則しており、かつ、宇宙の開発及び利用に関する諸条約の円滑な実施に支障を及ぼすおそれがないこと

人工衛星の管理に係る許可制度

許可

(20条1項)

国内に所在し、又は日本国籍を有する船舶若しくは航空機若しくは我が国が管轄権を有する人工衛星として内閣府令で定めるものに搭載された人工衛星管理設備(以下「国内等の人工衛星管理設備」という。)を用いて人工衛星の管理を行おうとする者は、人工衛星ごとに、内閣総理大臣の許可を受けなければならない。

許可の基準

(22条)

以下のいずれも満たしている場合にのみ、人工衛星の管理に係る許可を受けることができる。

① 人工衛星の利用の目的及び方法が宇宙基本法の基本理念に則しており、かつ、宇宙の開発及び利用に関する諸条約の円滑な実施に支障を及ぼすおそれがないこと

② 人工衛星の構造が宇宙空間の有害な汚染等の防止及び公共の安全確保に支障を及ぼすおそれがないこと

③ 管理計画において宇宙空間の有害な汚染等を防止する措置及び終了措置を講ずることとされていること及び当該管理計画を実行する十分な能力を有すること

④ 終了措置の内容が人工衛星の飛行経路及びその周辺の安全や宇宙空間の有害な汚染等の防止等が確保されたものであること

第三者損害賠償制度

損害賠償担保措置

(9条)

人工衛星等の打上げの許可を得た打上げ実施者は、損害賠償担保措置を講じていなければ、当該許可を受けた人工衛星等の打上げを行ってはならない。

損害賠償担保措置とは、人工衛星の打上げ用ロケットの設計、打上げ施設の場所その他の事情を勘案して内閣府令で個別に定められる金額(以下「賠償措置額」という。)[5]をカバーすることができる①ロケット落下等損害賠償責任保険契約及び特定ロケット落下等損害に係るロケット落下等損害賠償補償契約の締結又は②供託を意味する。

ロケット落下等損害の賠償

(35条)

国内に所在し、又は日本国籍を有する船舶若しくは航空機に搭載された打上げ施設を用いて人工衛星等の打上げを行う者は、当該人工衛星等の打上げに伴いロケット落下等損害を与えたときは、その損害を賠償する責任を負う(無過失責任)。

責任集中制度

(36条)

ロケット落下等損害の賠償責任を負う者は、人工衛星等の打上げを行う者に限定され、衛星運用者や衛星製造者等は当該賠償責任を負わない。

ロケット落下等損害賠償補償契約(政府補償)

(40条)

政府は、打上げ実施者を相手方として、特定ロケット落下等損害(すなわち、ロケット落下等損害賠償責任保険の支払対象外であるロケット落下等損害)を打上げ実施者が賠償することにより生ずる損失につき、賠償措置額を超えない範囲において政府が補償することを約するロケット落下等損害賠償補償契約を締結することができる。

さらに、政府は、打上げ実施者を相手方として、ロケット落下等損害を打上げ実施者が賠償することにより生ずる損失のうち、損害賠償担保措置によってカバーすることができない部分(すなわち、賠償措置額を超える部分)につき、3500億円を超えない範囲において政府が補償することを約するロケット落下等損害賠償補償契約を締結することができる。

人工衛星落下等損害の賠償[6]

(53条)

国内等の人工衛星管理設備を用いて人工衛星の管理を行う者は、当該人工衛星の管理に伴い人工衛星落下等損害を与えたときは、その損害を賠償する責任を負う(無過失責任)。

III. 宇宙活動法の見直しに関する小委員会/中間とりまとめ

上記II.のとおり、宇宙活動法は2018年11月に施行されたが、その後の技術革新に伴い、現行の宇宙活動法では対応できない多種多様な宇宙活動が行われ、あるいは計画されるようになった。また、日本のみならず、米国、中国、EU、英国、インドをはじめとする諸外国においても宇宙ビジネスは急速に発展し、国際競争が激化している。

こうした状況を踏まえ、現行の宇宙活動法では対応できない多種多様な宇宙活動に対応し、かつ、日本の宇宙ビジネスの国際競争力の強化を図るため、2024年9月から「宇宙活動法の見直しに関する小委員会」において宇宙活動法の見直しに関する議論が進められ、2025年3月25日に宇宙活動法の見直しの基本的方向性についての中間とりまとめ(以下「中間とりまとめ」という。)[7]が公表された。

中間とりまとめにおいては、宇宙活動法の見直しについて、以下の各事項を検討すべきである旨記載された。

目標

概要

多様な宇宙活動への対応

多様な宇宙輸送形態への対応

以下の宇宙輸送形態に対応する制度の設計

Ÿ 再使用型ロケット

Ÿ 気球からのロケットの打上げ(ロックーン方式による打上げ)

Ÿ 人工衛星等の打上げ以外の軌道投入物のあるロケット(例:人工衛星の搭載がない実証段階のロケット)

Ÿ サブオービタル飛行

Ÿ 軌道投入物のないロケット(サブオービタルロケット)

Ÿ 再突入

Ÿ 有人宇宙飛行・輸送

人工衛星の多様化への対応

Ÿ 軌道間輸送機、小惑星探査機、月面輸送機等、地球を回る軌道の外に投入される人工衛星に適用すべき制度

Ÿ ロケット軌道投入段、ロケット軌道投入段から分離されないダミーペイロード、モニュメント、宇宙葬用カプセル等、「人工衛星」該当性が不明な物体に対応する制度

Ÿ ①人工衛星を軌道上で他者に譲渡する場合、及び②人工衛星の管理を他者に承継する場合に係る制度

宇宙産業の国際競争力強化

宇宙活動の国際化に対応する規律

Ÿ 日本人・日本法人が本邦領域外で行う打ち上げ等の規律

Ÿ 外国人・外国法人が本邦領域内で行う打ち上げ等の規律

許可手続の簡素化・迅速化

Ÿ 包括的な許可制度の設計

Ÿ 適合認定を受けた打上げ施設の構造・設備等の変更認定手続の見直し

Ÿ 打上げ場所に係る制度の設計

宇宙活動の安全性・信頼性確保

損害賠償担保措置及び政府補償制度の対象の拡大

以下の損害について、損害賠償担保措置及び政府補償制度の対象の拡大

Ÿ 再使用型ロケット、人工衛星等の打上げ以外の軌道投入物のあるロケットに係る地上で生じる第三者損害

Ÿ 大型・難燃性の人工衛星に係る人工衛星落下等損害

Ÿ 再突入行為に伴い地上で生じる第三者損害

事故対応

Ÿ ロケット落下等損害発生時の報告制度の設計

Ÿ 人工衛星落下等損害発生時の報告制度の設計

危険物等の搭載の有無や構造等の確認

以下の搭載物の有無や構造等を確認する制度の設計

Ÿ 放射性物質・危険物(兵器、爆発物等)

Ÿ 人工衛星として管理を行わない宇宙物体

宇宙物体登録手続

Ÿ 宇宙物体登録手続の制度の設計

以下では、中間とりまとめに記載された事項のうち宇宙活動法改正案に導入することが議論されている事項について概説する。

A. 多様な宇宙輸送形態への対応

1. 再使用型ロケット

従来のロケットは、打上げ後に海に落下させて廃棄し、あるいは宇宙空間から大気圏に突入させて燃え尽きさせるなど、基本的に使い捨てであった。そして、使い捨ての場合、①打上げのたびに新品のロケットを準備・使用する必要があり、多大な製造費用を要するため、打上げ費用を削減することが困難であり、また、②製造工程に着手してから完成するまでに時間を要するため、打上げ頻度を向上させることが難しいという課題があった。

しかしながら、近時、使い捨てではなく、地上又は海上に安全に降下させ回収した上で再使用する再使用型ロケットの開発・実用化が進められている。再使用型ロケットを用いることにより、上記の課題を解決することができ、①打上げ費用の大幅な削減及び②高頻度の打ち上げが可能になると考えられている。また、SDGsの観点からも再使用型ロケットの使用は好ましいと考えられている。

もっとも、現行の宇宙活動法上、再使用型ロケットは想定されておらず、安全な降下や回収を確保するための規定は設けられていない。

そこで、中間とりまとめでは、再使用型ロケットについて降下の際の経路や着陸・回収地点周辺の安全確保に係る基準等必要な規定を整備する方向で具体的な制度設計を検討する必要がある旨記載されている。

2. 気球からのロケットの打上げ(ロックーン方式による打上げ)

ロックーン方式とは、気球を用いて一定の高度までロケットを上昇させ、空中で点火して発射する打上げ方式である。

地上からロケットを打ち上げる場合、空気が多く空気抵抗が強い層を通過するために多くのエネルギーを要する。他方、ロックーン方式の場合、そのような空気抵抗が強い層を気球で通過し、空気が薄く空気抵抗が弱い高度からの発射となるため、より少ないエネルギーかつ低コストで目標地点まで到達することが可能となると考えられている。

他方、上記II.で記載したとおり、人工衛星等の打上げの許可の対象となるのは「国内に所在し、又は日本国籍を有する船舶若しくは航空機に搭載された打上げ施設」を用いた人工衛星等の打上げであるところ(4条1項)、気球は航空法上の「航空機」に該当しないと解されている。そのため、現行の宇宙活動法は、ロックーン方式による人工衛星等の打上げを人工衛星等の打上げの許可の対象としていないと考えられる。

そこで、中間とりまとめでは、ロックーン方式による人工衛星等の打上げについて、既存の打上げと同等の規定を整備する方向で具体的な制度設計を検討する必要がある旨記載されている。

3. 人工衛星等の打ち上げ以外の軌道投入物のあるロケット

人工衛星の打上げ用ロケットは、その開発・実証段階においては、何もペイロードを搭載せず、又はロケットの軌道投入段から分離しないペイロードを搭載して打上げを行う場合がある。

他方、上記II.で記載したとおり、人工衛星等の打上げとは「自ら又は他の者が管理し、及び運営する打上げ施設を用いて、人工衛星の打上げ用ロケットに人工衛星を搭載した上で、これを発射して加速し、一定の速度及び高度に達した時点で当該人工衛星を分離すること」と定義されている(2条5号)。

この点、上記のような打上げの場合、ロケットの軌道投入段が地球を回る軌道又はその外に投入されたとしても、当該軌道投入段に何もペイロードが搭載されておらず、あるいは当該投入段からペイロードが分離されない以上、「人工衛星を搭載」、「人工衛星を分離」という要件を満たさない。そのため、現行の宇宙活動法は、上記のような打上げを人工衛星等の打上げの許可の対象としていないと考えられる。

そこで、中間とりまとめでは、「人工衛星等の打上げ」の定義自体の見直しを含め、宇宙活動法上の必要な規定の整備を行う方向で具体的な制度設計を検討する必要がある旨記載されている。

4. サブオービタル飛行

サブオービタル飛行とは、地上から出発し、高度100km程度まで上昇後、地球を回る軌道には到達せずに地上に帰還する飛行をいう。将来的に高速二地点間輸送、宇宙旅行や微小重力実験等に用いられることが期待され、サブオービタル飛行に用いる機体(サブオービタル機)の開発が進められている。

他方、上記II.で記載したとおり、人工衛星等の打上げとは「自ら又は他の者が管理し、及び運営する打上げ施設を用いて、人工衛星の打上げ用ロケットに人工衛星を搭載した上で、これを発射して加速し、一定の速度及び高度に達した時点で当該人工衛星を分離すること」と定義されている(2条5号)。

また、人工衛星等とは「人工衛星及びその打上げ用ロケット」を意味するところ(2条3号)、人工衛星とは「地球を回る軌道若しくはその外に投入し、又は地球以外の天体上に配置して使用する人工の物体」と定義されている(2条2号)。

この点、サブオービタル機は地球を回る軌道又はその外に投入されることはないため、サブオービタル機自身は「人工衛星」の要件を満たさない。また、サブオービタル飛行においては人工衛星を分離することはないため、「人工衛星等の打上げ」の要件を満たさない。そのため、現行の宇宙活動法は、サブオービタル飛行を人工衛星等の打上げの許可の対象としていないと考えられる。

そこで、宇宙活動法においてサブオービタル飛行も人工衛星等の打上げの許可の対象に含めるべきとの議論がなされている。その一方、サブオービタル機を航空法上の「航空機」と峻別し得るかも含め、サブオービタル機の航空法制上の整理を行う必要があるとの意見も示されている。

こうした状況を踏まえ、中間とりまとめでは、宇宙活動法によるサブオービタル飛行の規律の可否やその内容について、更に具体的に検討を深める必要があり、その際、外国当局をはじめ国内外の規制当局、民間企業等の関係者と丁寧に議論を行う必要がある旨記載されている。

5. 軌道投入物のないロケット(サブオービタルロケット)

従前から、JAXAや大学等においては、観測ロケットをはじめとする、地球を回る軌道又はその外への投入物のないロケット(サブオービタルロケット)の打上げが行われている。

他方、上記II.で記載したとおり、人工衛星等の打上げとは「自ら又は他の者が管理し、及び運営する打上げ施設を用いて、人工衛星の打上げ用ロケットに人工衛星を搭載した上で、これを発射して加速し、一定の速度及び高度に達した時点で当該人工衛星を分離すること」と定義されている(2条5号)。そして、人工衛星とは「地球を回る軌道若しくはその外に投入し、又は地球以外の天体上に配置して使用する人工の物体」と定義されている(2条2号)。

この点、サブオービタルロケットは、地球を回る軌道又はその外への投入物がないため、「人工衛星を搭載」という要件を満たさない。そのため、現行の宇宙活動法は、サブオービタルロケットを人工衛星等の打上げの許可の対象としていないと考えられる。

そこで、宇宙活動法においてサブオービタルロケットも人工衛星等の打上げの許可の対象に含めるべきとの議論がなされている。その一方、サブオービタル飛行を一律に宇宙活動法の規制下に置いた場合、観測ロケットのような、試験や研究開発を目的とするサブオービタルロケットをスムーズに打ち上げることが困難になる可能性があるとの意見も示されている。

そこで、中間とりまとめでは、宇宙活動法による一定のサブオービタルロケットの打上げ行為の規律の可否について、日本の研究開発等の能力を維持しつつ、公共の安全を確保する観点からその必要性及び許容性をさらに検討する必要がある旨記載されている。

6. 再突入

地球を回る軌道は微小重力環境であり、創薬や半導体、先端物質製造等に関する微小重力環境実験を行うことが可能である。微小重力環境実験を行う場合、実験サンプルを格納した機器を打ち上げ、実験終了後、地球に実質的に無傷で帰還するよう当該機器を大気圏に意図的に再突入させ、着陸・着水させることが想定されている。

これに関し、宇宙活動法上、人工衛星の管理に係る許可の終了措置として、人工衛星を構成する機器の「一部」を燃焼させることなく地表又は水面に落下させて回収することが予定されている(22条4号イ)。

しかしながら、宇宙活動法は、再突入そのものを許可する許可制度(人工衛星の管理に係る許可とは別の許可制度)を規定していない。

そこで、中間とりまとめでは、宇宙活動法における再突入行為への対応について、人工衛星の管理に係る許可における終了措置との区分け等を含め、公共の安全を確保するために必要な制度・基準を整備する方向で具体的に制度設計を検討する必要がある旨記載されている。

7. 有人宇宙飛行・輸送

有人宇宙飛行・輸送に関する国際競争は開始されており、米国では既に有人宇宙飛行・輸送が実用化されている。このような状況において、仮に日本における有人宇宙飛行・輸送の実現が2030年代前半になるとしても、2020年代中に制度整備を行っておかなければ、技術開発等を円滑に進めることができなくなり、日本が有人宇宙飛行・輸送に関する国際競争に勝ち残ることができなくなる可能性があるとの意見が示されている。

しかしながら、宇宙活動法上、有人宇宙飛行・輸送に係る安全基準は設けられていない。そのため、同法において有人宇宙飛行・輸送に係る安全基準を設けるべきとの議論がなされている。

他方、日本においては有人宇宙飛行・輸送技術開発の経験がないため、2020年代中に有人宇宙飛行・輸送に係る安全基準の策定や当該基準に基づく審査を行う体制を構築することが現実的に可能かという問題も指摘されている。

そこで、中間とりまとめでは、有人宇宙飛行・輸送制度の実現可能性や制度の対象とする範囲について、技術的な発展の状況も考慮しつつ、他国の立法例や国内における航空法その他の有人輸送法制を参照し、引き続きJAXAや民間企業等の関係者や有識者と丁寧に議論を行いつつ、検討する必要がある旨記載されている。

B. 人工衛星の多様化への対応

1. 地球を回る軌道の外に投入される人工衛星

上記II.で記載したとおり、人工衛星とは「地球を回る軌道若しくはその外に投入し、又は地球以外の天体上に配置して使用する人工の物体」と定義されており(2条2号)、①地球を回る軌道に投入される物体、②地球を回る軌道の外に投入される物体及び③地球以外の天体上に配置される物体の3種類の物体が「人工衛星」として扱われ、これらの物体には宇宙活動法上の同一の規律が適用される。

これに関し、地球軌道を回る機器と地球を回る軌道の外に投入される機器(例えば、軌道間輸送機、小惑星探査機、月面輸送機)に同一の規律を適用すべきではなく、具体的な用途等に応じた別々の規律を適用すべきとの議論がなされている。

そこで、中間とりまとめでは、人工衛星の管理に係る許可制度において、地球を回る軌道の外に投入される機器を「人工衛星」として一律に同様の規律の対象とすべきかを検討する必要がある旨記載されている。

2.「人工衛星」該当性が不明な物体

上記II.で記載したとおり、人工衛星とは「地球を回る軌道若しくはその外に投入し、又は地球以外の天体上に配置して使用する人工の物体」と定義されている(2条2号)。

他方、ロケット軌道投入段から分離されないダミーペイロード、モニュメントや宇宙葬用のカプセルといった、「人工衛星」に該当するか必ずしも明らかでない物体も存在する。

そこで、中間とりまとめでは、「人工衛星」に該当するか必ずしも明らかでない物体も存在することから、「人工衛星」の概念自体も整理する必要がある旨記載されている。

IV. おわりに

本稿においては、現行の宇宙活動法の概要、中間とりまとめの内容、及び中間とりまとめに記載された事項のうち宇宙活動法改正案に導入することが議論されている事項を概説した。次稿においては、宇宙活動法改正ワーキンググループにおいて議論されている宇宙活動法改正案を取り上げることを予定している。


[1] https://www8.cao.go.jp/space/comittee/dai118/gijiyousi.pdf

[2] https://www8.cao.go.jp/space/hq/dai32/gijiyousi.pdf

[3] https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/shiryo/kaiki.htm

[4] いわゆる宇宙保険契約である。

[5] 賠償措置額は、例えば、長年日本の基幹ロケットであったH-IIA(202型)を種子島宇宙センターから打ち上げる場合については60億円、日本の新型の基幹ロケットであるH3(22型)を種子島宇宙センターから打ち上げる場合については99億円とされている(令和6年12月2日内閣府告示第138号)。

[6] ロケット落下等損害とは異なり、人工衛星落下等損害については責任集中の制度は設けられていない。また、人工衛星の管理を行う者には損害賠償担保措置は義務付けられておらず、政府補償の制度も設けられていない。

[7] https://www8.cao.go.jp/space/comittee/31-katsudou_minaosi/k_m-chukan/honbun.pdf