概要
2026年7月1日、米国は米国・メキシコ・カナダ協定(以下「USMCA」)の初回の6年ごとの共同レビューにおいて、現行の内容での協定延長を支持しない方針を表明しました。米通商代表のジェイミソン・グリア氏によると、米政権は、メキシコおよびカナダとの交渉を継続し、USMCAや二国間貿易赤字の対応について協議を進める方針です。米国、メキシコおよびカナダの政府はいずれも、USMCAは今後の交渉期間中も引き続き有効であることを確認しています。
現行のUSMCA下の優遇措置等に変更なし
USMCAで定められている特恵関税待遇、原産地規則、証明手続き、通関上の優遇措置、紛争解決制度は変更されていません。企業は、原産地規則および記録保持要件を満たす限り、特恵待遇、原産地証明書の提出、既存の地域付加価値(RVC)や関税分類変更(タリフシフト)分析を引き続き利用することが可能です。
年次レビューの開始
米国が延長を支持しない方針を示したことで、協定第34.7.4条に基づく年次レビューの仕組みが発動します。これにより、当事国がそれ以前に延長に合意するか、協定条項に従い終了しない限り、現行のUSMCAの協定期間である2036年7月1日まで交渉を継続する枠組みが作られます。
今回の方針は、第34.6条が別途定める「離脱(withdrawal)」とは異なります。離脱には書面通知が必要で、通知から6か月後に発効します。米国は現時点で離脱通知を行っていません。
サプライチェーンへの影響
米国・メキシコの輸出入業者にとって、米国側・メキシコ側のいずれにおいても特恵関税待遇が直ちに受けられなくなることはありません。一方で、安定した北米貿易ルールを前提にサプライチェーンや調達戦略を構築し、投資を行ってきた企業にとっては、長期的な不確実性が今後の重要な検討課題となります。
今後の交渉で特に注目されうる分野
- 原産地規則: (特に戦略的分野を中心とした)地域付加価値要件の追加、関税分類変更ルールの厳格化、書類要件の強化
- 自動車製造: 電池、鉄鋼、アルミニウム、重要部品を含む北米域内調達要件
- 非北米原産の原材料・部品: 中国その他の非北米域からの原材料・部品の取扱い、迂回輸送や積み替えへの懸念
- 労働・執行強化: 労働分野における追加的義務やより強力な執行体制
- 戦略的に重要な産業分野: 鉄鋼、アルミニウム、重要鉱物、半導体、医療機器、エネルギー、先進的製造業
- 米国のその他の通商措置: USMCAと並行して適用される米国の通商措置(232条・301条その他)
特に影響を受ける可能性のある業種として、自動車・部品、電子機器・半導体、医療機器、機械・産業機器、鉄鋼・アルミニウム製品、外国投資の比重が高い先進的製造業が挙げられます。
今後の見通し
今回の年次レビューの開始は、北米通商政策の主要な要素をめぐる長期的な再交渉の始まりとなる可能性があります。調達・製造・投資戦略が現行のUSMCAルールに依拠する企業は、原産地コンプライアンスの見直しや、非北米原産の原材料や部品の依存度の把握に加え、年次レビューの進展を注視することが望まれます。