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変革を続ける中国:中国における臨床データの価値再評価(第1部)― 新たな独占保護体系の発効

2026年5月15日、中国の薬品管理法実施条例(以下、「実施条例」)の大幅な改正が施行され、その中で、正式な医薬品データ保護制度が導入されました。また、同日、国家薬品監督管理局(以下、「NMPA」)は、医薬品試験データ保護実施弁法(以下、「実施弁法」)を公布し、中国が世界貿易機関(WTO)加盟時に受け入れたデータ保護義務について、実施条例に盛り込まれたデータ保護関連規定に初めて具体的な運用制度を与えました。2026年まで、中国において先発医薬品企業が研究開発投資を回収する手段は、ほぼ完全に特許権と薬価に依存していました。しかし現在では、先発医薬品企業の投資回収は四層構造の保護体系に依拠するようになっており、中国で生成された臨床試験データは、制度上明確に位置付けられ、公的に登録されるとともに、契約により移転又は利用許諾可能な規制資産として扱われるようになりました。

本GT Advisoryでは、中国の2026年改革における独占保護に関する側面を取り上げます。 これに対し、2026年9月1日に施行される新たな医薬品臨床試験実施基準(Good Clinical Practice)の再構築に関する改革、すなわちコスト面への影響については、別途公表する関連GT Advisory にて解説します。

企業への影響

  • 資産価値評価:データ保護の内容は医薬品承認証書に明記されるとともに、医薬品評価センター(以下、「CDE」)のポータルサイトにも公表されるため、取引相手方及び競合他社によるデューデリジェンスにおいて当該保護の有無や内容を確認することが可能となります。
  • 事業開発:保護対象データへの依拠に対する同意は、今後、CDE所定の契約書に基づいて行われます。この契約上の権利は、対価を設定したり、段階的に付与したり、あるいは付与を留保したりすることのできる、取引可能な権利となります。
  • 製造拠点:ワクチン及びバイオ医薬品については、輸入品として承認を取得した場合には6年間のデータ保護が付与される一方、中国国内で製造する製品として承認を取得した場合の保護期間は3年間にとどまります。したがって、製造拠点の選定と独占保護戦略は、今や一体として検討すべき経営上の意思決定となります。

Ⅰ. 四層構造の保護体系

中国は2002年のWTO加盟に際して医薬品データ保護制度を導入しましたが、その原則は20年以上にわたり、具体的な実施体制を欠いたまま文面上存在するに留まっていました。これによる競争上の影響は顕著でした。2025年7月のGT Advisoryで解説しましたとおり、先発医薬品の物質特許が依然として有効であるにもかかわらず、2025年1月時点で少なくとも23社の中国企業がセマグルチドのバイオシミラーを開発していました。

2026年1月16日に公布され、同年5月15日に施行された実施条例は、この制度上の空白を埋めるものとなりました。ここで特に重要となるのが、実施条例の2つの規定です。 実施条例第22条は、新規化学物質を含む医薬品及びその他一定の要件を満たす医薬品の保有者が提出する、自ら取得した未公表の試験データその他のデータを保護します。また、同条は、不公正な商業的利用を禁止しており、これは実施弁法によって具体化される原則を定めたものです。 さらに、実施条例第21条は、行政規則レベルにおいて初めて市場独占期間を規定しました。具体的には、適格な小児用医薬品については最長2年間、適格な希少疾病用医薬品については供給確保義務を条件として最長7年間の市場独占期間が認められます。もっとも、この供給確保義務を履行しない場合には、市場独占期間は失効します。 なお、実施条例第10条では別途、NMPAの要件を満たす海外で取得された研究開発データの受入れについて規定しています。

階層

法令

阻止事項

状況

特許

特許法(特許期間延長制度を含む)

特許を侵害する製造、使用、販売の申出、販売又は輸入を阻止。訴訟又は特許行政当局による執行が可能。

施行中

パテントリンケージ

特許紛争早期解決メカニズム実施弁法(2021年)

化学ジェネリック医薬品について、9か月間の停止期間中における承認取得を阻止。

施行中

データ保護

実施条例第22条及び実施弁法

保護対象データに依拠した申請について、権利者の同意のない承認取得を阻止。

2026年5月15日発効

市場独占期間

実施条例第21条

誰のデータに基づくかを問わず、同一品目(same variety)の承認取得の阻止。

実施細則未定

最後の2つの階層(データ保護と市場独占期間)を比較すると、第4層である市場独占期間の方がより強力な保護を提供します。 データ保護が禁止するのはあくまで保護対象データへの依拠のみであり、競合他社が独自に完全なデータセットを取得している場合には、承認を受けることがなお可能です。これに対し、市場独占期間は、データの出所を問わず、同一品目(same variety)の承認そのものを阻止するため、米国における新規化学物質独占期間及び希少疾病用医薬品独占期間に最も近い中国の制度と言えます。希少疾病治療薬については、市場独占期間による保護が、6年間のデータ保護期間を上回る価値をもたらす可能性があり、データ保護期間と市場独占期間の2つの制度は並行して進行することもあります。

米国及び欧州との制度比較

ハッチ・ワックスマン法(Hatch-Waxman Act)、生物製剤価格競争・イノベーション法(以下、「BPCIA」)、及びEUのインセンティブ制度に慣れた開発企業(スポンサー)にとって、以下の比較は、中国の新たな制度体系を理解する上での参考となります。なお、本稿における欧州の記述は現行制度を前提としています。 欧州では2026年に合意された医薬品制度改革パッケージにより更なる制度再編が予定されていますが、その大部分は2028年頃から適用される見込みです。

階層

米国

欧州連合

中国20265月以降)

データ保護(新規有効成分)

5年間。この期間中は後発申請は提出できません。ただし、第 IV項認証がある場合は4年間となります。

8年間のデータ保護に加え、2年間の市場保護期間、及び重要な新適応症については更に1年間の追加保護が加算されます。2026年改革では、「8+1(+1)(+1)」へ再編されます。

中国における初回承認から6年間。一律適用であり、海外で先行販売されていたことによる保護期間の短縮はありません。また、保護対象は臨床試験データに加え、CMC(化学・製造・品質管理)データにも及びます。

希少疾病

7年間の希少疾病用医薬品独占期間。

10年間の希少疾病用医薬品市場独占期間。

最長7年間の市場独占期間。供給義務の履行を条件として付与され、当該義務に違反した場合には終了します。実施細則は未定です。

小児用医薬品

既存の独占期間又は特許期間に6か月が加算されます。

合意された小児臨床試験計画を完了した場合、補充的保護証明書の保護期間が6か月延長されます。2026年改革により、小児臨床試験計画完了時に別途適用されていた従来の2年間の希少疾病用延長措置は廃止されます。

独立した市場独占期間として最長2年間付与されます。既存の独占期間や特許期間を延長する仕組みではありません。

バイオ医薬品

BPCIAに基づき、先行バイオ医薬品について12年間の参照製品独占期間が付与されます。また、いわゆる特許情報交換手続(Patent Dance)が適用されます。

基本的に低分子医薬品と同様の保護体系が適用されます。

6年間のデータ保護期間が付与されます。また、バイオシミラーについては、パテントリンケージ制度による承認停止期間は適用されないため、承認を阻止し得る規制上の保護措置はデータ保護に限られます。

米国及びEUの制度と比較した場合、中国制度には二つの特徴があります。第一に、小児用医薬品に付与される保護期間は、申請者が既に保有している特許権又は独占期間に上乗せされるものではなく、独立した市場独占期間として付与されるため、特許期間又は既存の独占期間が既に満了している製品であっても、この制度を利用することが可能です。第二に、中国の希少疾病用医薬品に対する市場独占期間は、継続的な供給を条件としている点です。ただし、これは中国特有の考え方ではありません。EUの医薬品制度改革においても、市場保護期間の延長は、実際の商業供給の実施及び加盟国における適時の上市と結び付けられています。このように、中国及びEUはいずれも、承認を受けたことのみを理由として独占期間を付与する制度から、市場への実際の供給及びアクセスを実現することによって独占期間を付与又は維持する制度へと移行しつつあります。これに対し、米国では、希少疾病用医薬品の独占期間に同様の供給条件は設けられていません。そのため、従来、独占期間を承認取得と同時に当然に付与される固定的な権利として捉えてきた開発企業は、今後、3つの主要市場のうち2つの市場(中国及びEU)において、独占期間を確保するための供給義務を事業計画に織り込む必要が生じる可能性があります。

実施条例第21条に関しては、なお二つの重要な論点が未解決のまま残されています。第一に、2026年5月15日から中国の実施細則が公布される日までの間に承認を取得した医薬品について、市場独占期間を遡及的に主張することができるか否かは明らかではありません。もっとも、新規化学物質については、実施条例が6年間の遡及期間を認めているため、拘束力のある先例ではないものの、一つの参考となり得ます。第二に、実施条例は独占期間の上限のみを定めています。すなわち、希少疾病用医薬品については「最長7年」、小児用医薬品については「最長2年」と規定されていますが、個別の医薬品について実際に何年間の市場独占期間が付与されるのかを判断する基準は示されていません。さらに、市場独占期間は「適格な(qualifying)」希少疾病用医薬品にのみ認められるとされていますが、供給義務を満たすこと以外に、どのような要件を充足すれば「適格」と判断されるのかについても明らかにされていません。したがって、市場独占期間の具体的な付与期間を決定する基準及び適用対象となるための詳細な適格要件の双方については、今後公表される実施細則による明確化が待たれる状況です。

現時点では、希少疾病用医薬品又は小児用医薬品が、どのような手続によって市場独占期間の付与を申請し、又は取得することができるのかについても、詳細な実施細則が未定であるため不明確となっています。将来の選択肢を確保する観点からは、開発企業は、現段階から希少疾病指定に関する資料、疫学データ及び安定供給能力を示す資料の整備を進めることを検討してもよいでしょう。また、特定の製品について遡及適用の可能性が問題となる場合には、CDEとのコミュニケーションチャネルを通じて当局に照会するとともに、実施細則案が公表された際には実質的なコメントを提出することも検討に値します。

Ⅱ. 草案から最終規則にかけての主な変更点

NMPAは、2026年5月15日付の第47号公告により実施弁法を公布し、同日付で直ちに施行しました。また、同日にはCDEの運用手順書及び経過措置に関する通知も公表されました。 2025年7月のGT Advisoryにおいて分析した2025年3月19日付の意見聴取用草案(consultation draft)と比較すると、分析結果に実質的な影響を与える重要な変更が3点あります。

  • 保護期間短縮ルールが削除されました。草案では、中国国外で最初に承認された先発医薬品について、海外での初回承認から中国での承認申請の受理日までの期間分、中国における保護期間を短縮するルールが採用されていました。2025年7月GT Advisoryでは、「海外での初回承認(first overseas approval)」の意味が明確に定義されていない点を問題として指摘していました。最終的な実施弁法では、このルール自体が削除されることにより当該問題が解消されました。すなわち、実施弁法第5条は、過去の海外での承認履歴にかかわらず、中国における最初の販売承認(marketing authorization)の日から一律6年間の保護期間を付与するものとしています。
  • 改良型医薬品(improved drugs)に対する保護期間が3年から4年へ延長されました。また、実施弁法第6条は、中国国外では既に販売されているものの、中国で初めて申請される改良型医薬品についても、同じ4年間の保護期間を認めています。
  • 希少疾病用医薬品及び小児用医薬品に関する保護制度は、実施弁法には盛り込まれませんでした。その代わりに、これらはいずれも、実施条例第21条に基づく市場独占期間として規定されることとなり、データ保護とは異なる、より強力な保護メカニズムの下で、別のスケジュールに従って導入されることになります。

事例:中国での先行申請の戦略的可能性

2026年7月22日、NMPAは、武田薬品工業のナルコレプシー1型治療薬である「Orzeyful(oveporexton)」を承認しました。これは、同製品が世界で初めて承認された事例です。同社の中国における申請は2026年1月に受理され、優先審査の対象となりました。その後、米国での申請は2026年8月5日に承認されましたが、日本での申請は現在も審査中です。 中国で承認される以前にいずれの国・地域においても販売されたことのない医薬品は、第1類化学医薬品(Chemical Class 1)に分類され、6年間のデータ保護期間の適用を受けます。その保護範囲は、安全性、有効性及び品質管理可能性(quality controllability)を裏付ける申請資料一式(dossier)全体に及びます。 当該製品の承認は主としてグローバル第III相試験のデータに依拠していましたが、改正後の実施条例第10条は、このようなグローバル試験データの利用を明示的に認めています。 このことは、中国が、グローバルな臨床開発データパッケージに基づいて世界初承認を取得することが可能な法域となったことを示しています。また、その審査スケジュールは米国及び日本と十分に競争可能な水準にあり、承認時点から6年間のデータ保護が付与されます。 したがって、従来のように中国を後続市場として位置付けることを前提とするのではなく、中国を最初の承認取得国とする申請戦略の可能性について改めて検討する価値があるでしょう。

適格要件の判断に役立つ三つの定義

  • 「未開示(undisclosed)」とは、完全には開示されていないことを意味します。NMPAが2026年5月15日に公表した実施弁法に関する政策解説によれば、データが部分的に開示されたとしても、データセット全体としては依然として未開示とみなされます。保護が失われるのは、完全なデータセット全体が公開された場合に限られます。そのため、臨床試験登録データベースへの登録情報や要約結果の公表のみでは保護は失われませんが、完全なデータセットが公表された場合には保護は失われます。したがって、情報開示の管理は、もはや単なる広報上の選択事項ではなく、法的な管理事項となっています。
  • 「自己取得(self-obtained)」には、自己で創出したデータのみならず、第三者から取得したデータも含まれます。NMPAは、委託研究によって得られたデータに加え、購入又は独占的ライセンスによって取得したデータもこれに含まれることを確認しています。そのため、ライセンス導入されたデータセットであっても、ライセンシーが保有する場合にはデータ保護の対象となり得ます。これにより、デューデリジェンスにおいて、明確かつ独占的で、適切に文書化されたデータ権利の価値が高まります。また、これには、近年、グローバルな希少疾病プログラムで活用されることが増えている中国の医師主導試験(investigator-initiated trial)のデータも含まれます。
  • 保護範囲は、製造及び品質に関するデータにも及びます。実施弁法第5条は、安全性、有効性及び品質管理可能性を裏付ける申請資料一式を保護対象としており、このうち「品質管理可能性」という第三の要素が、CMC(化学・製造・品質管理)データパッケージを含める根拠となっています。 これに対し、実施弁法第6条及び第8条が定める保護範囲はより限定的であり、臨床データに限定されています。また、生物学的利用能(bioavailability)、生物学的同等性(bioequivalence)及びワクチンの免疫原性(immunogenicity)に関するデータは保護対象から除外されています。 さらに、実施弁法第4条は、保護を受けるための追加的要件として、当該データが中国において販売承認申請のために初めて使用されるものであること、及び当該データが完全なものであることを求めています。

Ⅲ. データ保護期間

化学医薬品

クラス

内容

保護期間

備考

1

いずれの国・地域においても販売されたことのない革新的な新薬

6年

CMC(化学・製造・品質管理)データを含む。

2

いずれの国・地域においても販売されたことのない改良型新薬

4年

BA/BE(生物学的利用能/生物学的同等性)データを除く。

3

中国国外の先発医薬品について、中国において初めて承認される国内ジェネリック医薬品

3年

最初の承認品目に限る。

4

中国で既に販売されている医薬品のジェネリック医薬品

なし

5.1

中国国外の先発医薬品が中国で申請される場合

6年

後続の追加適応症については4年。

5.1

中国国外の改良型医薬品が中国で申請される場合

4年

要約資料では省略されることが多い。

5.2

中国国外のジェネリック医薬品が中国で申請される場合

3年

最初の承認品目に限る。

ワクチン及び治療用生物学的製剤

クラス

内容

保護期間

備考

1

革新的ワクチン又は革新的生物学的製剤

6年

2

改良型ワクチン又は改良型生物学的製剤

4年

3.1

海外で製造され、海外では販売されているが中国では未販売であり、中国での販売承認を申請する場合

6年

生物学的製剤:後続の追加適応症については4年。先発品でない場合は3年。

3.2

海外では販売されているが中国では未販売であり、中国国内での製造及び販売承認を申請する場合

3年

中国国内製造品

3.3/3.4

中国で既に販売されているワクチン、バイオシミラー及びその他の生物学的製剤

なし

革新的新薬が1つの承認番号の下で複数の適応症について承認を取得した場合には、各適応症は登録区分ごとにそれぞれ独立して保護されます。この場合、追加適応症に対する保護範囲は、当該適応症を裏付けるために提出されたデータに限定されます。実施弁法第7条によれば、中国国外の先発医薬品について、中国で初めて申請される適応症が世界のいずれの国・地域においても未承認である場合、当該データセット全体に対して6年間のデータ保護が付与されます。他方、その後に追加される適応症については4年間のデータ保護のみが付与されます。

データ保護制度の効力範囲

  • データ保護制度は承認を留保するものであり、申請そのものを禁止するものではありません。 実施弁法第12条は、保護期間満了前の最後の12か月間において、保護対象データに依拠する申請の提出を認めています。この場合、CDEは技術審査を完了した上で審査期間の進行を停止し、保護期間の満了時に承認を付与します。したがって、中国の当該制度は、保護対象データへの依拠を阻止する制度であり、申請そのものを阻止する制度ではありません。
  • 承認阻止の効果は非対称的です。 実施弁法第5条は、改良型新薬、ジェネリック医薬品及びバイオシミラーの承認を阻止します。これに対し、実施弁法第6条及び第8条は、ジェネリック医薬品及びバイオシミラーのみを対象としており、改良型新薬は対象に含まれていません。そのため、4年間の改良型新薬に対するデータ保護期間は、競合する別の改良型新薬の承認を排除するものではありません。
  • 独自に取得したデータに基づく申請は認められていますが、それ自体に対する特別な優遇措置はありません。 実施弁法第3条は、独自に取得したデータに基づく申請を認めていますが、そのような申請者に対して新たなデータ保護期間を付与するものではありません。他方で、当該申請者が提出したデータについて、後続申請者がこれに依拠することはできません。さらに、実施弁法第12条は、審査の結果、自己取得データに基づくとの主張が虚偽であることが判明した場合、すなわち、申請者が実際には他者の保護対象データに無断で依拠していたことが判明した場合には、当該申請は承認されません。
  • データ保護は法的地位であり、既得権ではありません。 実施弁法第3条には、公衆衛生上の緊急事態又は公共の利益を理由とする例外規定が設けられています。また、実施弁法第13条は、承認の取消し、承認の撤回、登録抹消又は権利者による放棄があった場合にはデータ保護が終了すると定めています。こうした事由が生じた場合には、その旨が公告され、その後は保護対象データに依拠する申請の審査手続を進めることが可能となります。

Ⅳ. 製造拠点による保護期間の分岐点

多国籍企業にとって重要な特徴の一つは、実施弁法の本則ではなく、その付属表に定められています。ワクチン及び治療用生物学的製剤については、分類区分が製造拠点によって決まります。すなわち、海外で製造され、中国での販売承認のために申請される製品はクラス3.1に分類され、6年間のデータ保護が付与されます。他方、中国国内で製造及び販売するために申請される製品はクラス3.2に分類され、付与される保護期間は3年間にとどまります。また、先発品ではない輸入製品についても3年間の保護期間が付与されます。その結果、最大限の保護期間は、製品を輸入する先発品企業に与えられる一方で、当初から中国国内での製造を選択する企業については保護期間が半減することになります。これは、2025年7月に当事務所が分析した医療機器の現地化政策を含め、中国市場戦略全体において進められている現地化(localization)の流れとは必ずしも整合しないものとなっています。

実務上は容易に混同される2つの異なるケースがありますが、その区別によって法的な帰結は異なります。まず、既存の販売承認に基づき、補充申請(supplemental application)により製造拠点を移転する場合です。この場合の取扱いは、現時点では明確になっていません。実施弁法第3条はデータ保護期間の起算点を承認時点に固定しており、また第13条が定めるデータ保護終了事由には製造拠点の変更は含まれていません。この点からは、製造拠点を変更した後も既存の保護期間が維持されるとの解釈が可能です。 他方で、CDEが当該製造拠点変更により当該製品が付属表上3年間の保護期間が適用される区分へ移行したものと判断する可能性もあります。次に、ライセンシーが中国国内で製造及び販売を行うために別個の申請を行う場合です。この場合は、独立したクラス3.2の登録申請として扱われ、その製品には、当該承認の日を起算点とする独自の3年間のデータ保護期間が付与されます。

段階的な現地化

先発医薬品企業が、まず輸入品として中国で販売承認を取得した場合、6年間のデータ保護期間を確保することができます。その後、必要な同意手続を経た上で、製造を中国の製造業者へ移管することも可能です。実施弁法に関する公式解釈によれば、この場合、中国国内で製造される製品は、新たに独立した保護期間を取得するのではなく、当初付与されたデータ保護期間の残存期間について引き続き保護を受けることができます。したがって、その期間中、NMPAは、権利者の同意なく、輸入品としての先発医薬品又は中国国内で製造された先発医薬品のいずれかのデータに依拠する後続のジェネリック医薬品又はバイオシミラーの申請を承認しません。

したがって、中国国内での製造による申請を最初かつ唯一の申請形態として選択することには実質的な影響が伴います。すなわち、当該製品には、クラス3.2に該当する最初の申請に認められる、より短い3年間のデータ保護しか付与されない可能性があります。これに対し、まず輸入品として販売承認を取得し、その後に現地製造へ移行する戦略(現地化戦略)を採る場合には、先に6年間のデータ保護期間を確保した上で、その保護を維持しながら製造を移転することが可能となります。したがって、関係事業者は、製造の現地化を先行させるのではなく、まず輸入品として中国で販売承認を取得することを検討してもよいでしょう。

Ⅴ. パテントリンケージ制度との相互作用

実施弁法が定める保護期間最終年(先発品データ保護期間の最後の12か月間)の申請受付制度と、2021年パテントリンケージ制度に基づく9か月間の承認停止期間は、いずれも申請受理や技術審査そのものではなく、行政上の承認手続に対して作用するものであるため、両制度は累積的に適用されます。すなわち、後続申請者がデータ保護期間の最終年に申請を行い、その後パテントリンケージ制度に基づく承認停止期間が発動した場合には、2つの独立した停止期間が並行して適用され、承認はその双方の停止が解除された後に初めて付与されます。

また、保護範囲の違いも重要なポイントです。9か月間の承認停止期間は化学ジェネリック医薬品の申請に限り適用され、バイオシミラーには適用されません。したがって、治療用生物学的製剤については、実施条例第21条に関する実施細則が公表されるまでの間、6年間のデータ保護期間が、制度上、承認を阻止する唯一の保護メカニズムとなります。もちろん、特許権自体は引き続き行使可能ですが、その行使には訴訟等の手続が必要であり、NMPAによる承認付与を直接停止させる効力はありません。そのため、生物学的製剤の開発企業は、低分子医薬品の場合以上に、データ保護の申請内容の正確性及びデータ保護資格の維持を重要な課題として位置付ける必要があると考えられます。

Ⅵ. 手続及び既に終了した経過措置期間

データ保護は自動的に付与されるものではありません。データ保護の申請は、販売承認申請と同時に行う必要があります。CDEは申請受理時に対象品目を特定し、技術審査の過程で保護対象となる範囲及び保護期間を確定した上で、承認証書にその内容を記載し、さらにCDEのポータルサイト上で公表します。実施弁法第9条は、データ保護に関する論点について、申請前又は審査期間中にコミュニケーション会議を開催することを認めています。また、解決に至らない争点についてはNMPAに付託されます。したがって、保護期間や保護範囲に関する当局案に異議がある場合には、それらが確定した後ではなく、審査の過程において争うことが可能です。

実施弁法の下では、2026年5月15日時点で既に承認を取得していた製品又は審査中であった製品について、データ保護を申請するための短期間かつ一度限りの特例申請機会(2026年6月5日まで)が設けられていました。しかし、この経過措置期間は既に終了しています。したがって、関係事業者としては以下の点を検討するべきです。(i) 第一に、既に販売されている製品又は過去に申請中であった製品については、将来改めて申請の機会が与えられることを前提とするのではなく、データ保護の適用可能性、適時の申請及びデータ保護の正式な登録状況を確認することを検討すべきです。(ii) 第二に、将来の製品については、データ保護が自動的に付与されるものではないことを踏まえ、販売承認申請と同時にデータ保護の申請を行う必要があります。

区分

要件

期限

状況

2026年5月15日以降に申請される製品

販売承認申請と同時にデータ保護申請を行うこと。

継続中

受付中

2026年5月15日時点で申請受理済みかつ審査中の製品、又は行政上の承認手続中の製品

公告後15日以内にデータ保護を申請すること。併せて、保護対象データに依拠する申請については経過的な停止措置が適用されます。

2026年5月30日又は2026年6月5日(下記参照)

終了

既に承認済みの製品(ただし、2020年5月15日から2026年5月14日までの間に承認された第1類化学医薬品に限ります。)

遡及的なデータ保護申請を行うこと。適格要件審査は2026年6月26日までに実施されます。

2026年6月5日

終了

上記表の第2行目の点については、あらゆる監査又はデューデリジェンスを行う際においても注意が必要です。第47号公告では申請期限を15日以内と定めていますが、これを暦日で計算した場合、期限は2026年5月30日に満了したことになります。他方、CDEは2026年6月5日、第1類化学医薬品の既承認製品に対する遡及適用ルートに関するQ&Aを公表しており、中国の実務家の中には、この15日を15営業日と解釈する見解もあり、その場合には3つのカテゴリーすべてについて申請期限が2026年6月5日に一致することになります。しかし、公表されている資料からは、CDEが先行する二つのカテゴリーについて実際にどの基準(暦日又は営業日)を適用したのかは明らかではありません。したがって、2026年5月30日から同年6月5日までの間に提出された申請については、期限内申請であると安易に判断するのではなく、CDEに確認することが望ましいと考えられます。

期限後の申請は、当該申請についてデータ保護を放棄したものとみなされ、その効力を後から回復することはできません。一方で、将来に向けた手段としては、実施弁法第5条に基づく申請ルートが残されています。各適応症は登録区分ごとに独立して保護されるため、当初の承認時にデータ保護申請を行っていなかった場合であっても、将来、新たな適応症に関する補充申請を行う際には、その適応症について独自のデータ保護を申請できる可能性があります。したがって、開発企業としては、中国で承認を取得している製品のうち、どの製品についてデータ保護が正式に登録されているのか、また、どの製品について登録がなされていないのかを、書面により確認しておくことが望ましいと考えられます。

Ⅶ. データ依拠同意契約

CDEの運用手順書によれば、データ保護の対象となるデータに依拠する申請であっても、データ権利者(holder)が同意し、かつ当事者間で所定様式によるデータ依拠同意契約が締結されている場合には、当該申請は受理されることがあります。 したがって、データ依拠への同意は、現在では独立した権利として明確に文書化されるものであり、直ちに規制上の効果を生じます。すなわち、この同意は、付与することも拒否することも可能であり、対価を設定し、段階的に付与し、又は取引の対象とすることも可能です。また、一旦有効に付与された後は、データ権利者が継続的に協力することを前提とするものでもありません。 2026年5月15日以前に締結された契約については、この点が規定されていない可能性がありますので、相手方が同一有効成分に関する潜在的な競合相手である場合には、この点を契約上明確化しておくことを検討すべきです。 実務上は、データ依拠への同意について、販売承認と当然に一体として移転するものと考えるのではなく、参照権(Reference Right)と同様に、取引条件書(deal sheet)においてクロージング時に交付すべき個別の交付物(closing deliverable)として明記し、別個の権利として交渉することを検討すべきでしょう。

そのため、取引関連契約を作成する際には、関係者は以下の手順を検討してもよいでしょう。

契約書作成上の留意点中国における取引

  • 同意権限の管理。データ依拠同意契約の締結権限を有する当事者を明記するとともに、当該同意が関連会社、サブライセンシー又は第三者にも及ぶのか否かを明確に規定すべきです。この点について規定がない場合、当該判断は販売承認保有者に委ねられることになります。
  • クロージング前の確認。CDEのポータルサイトにおいて、記録されたデータ保護期間、保護範囲及び第13条に基づく保護終了公告が存在しないことが確認されたことを、クロージングの前提条件とすることを検討すべきです。
  • 表明保証。データ保護申請が販売承認申請と同時に行われ、かつ承認されていること、第三者に対してデータ依拠への同意を付与していないこと、及び当該データが完全には開示されていないことについて表明保証を求めることを検討すべきです。
  • データの出所。ライセンス導入又は取得したデータセットについては、その権利が委託研究契約、購入契約又は独占的ライセンスに基づくものであることを確認すべきです。単なる非独占的な参照権のみではデータ保護の対象とはなりません。
  • 中間的義務(クロージング前義務)及びスポンサー変更。 契約締結からクロージングまでの間において、データ依拠への同意の付与、データ保護の放棄又はデータの開示を制限する条項を設けることを検討すべきです。また、中国における試験が継続中である場合には、改正実施条例第9条に基づき20営業日以内に決定されるスポンサー変更申請手続を、取引スケジュールに組み込むことも検討すべきです。

Ⅷ. 今後の対応

中国における申請又は中国向けの取引・現地化計画を有する企業にとっては、新たな制度への対応のため、薬事、知的財産、事業開発及び技術運営といった各部門を横断した連携による検討が必要となる可能性があります。したがって、関係者は以下の対応を検討してもよいでしょう。

担当部門

対応事項

時期

薬事

製品ごとに、データ保護申請が提出され、かつ承認されているかを、社内記録ではなくCDEポータルと照合して監査。保護期間及び保護範囲を中国向け薬事ファイル(China dossier)に記録。

直ちに

薬事

中国における申請順序を再検討。保護期間短縮ルールが廃止されたため、グローバルで先に承認を取得した後に中国で申請した場合であっても、保護期間が短縮されることはありません。他方、中国で最初に承認を取得したジェネリック医薬品は独自の3年間のデータ保護期間を取得できるため、申請の遅れは保護期間の短縮ではなく、誰が先に承認を取得するかという競争の問題を生じさせます。

次回の中国申請前

 

 

 

知的財産

データ保護期間と特許期間を、それぞれ独立して進行する補完的な保護手段として整理。また、「完全開示(completely disclosed)」基準に照らして情報公開実務を監査。臨床試験登録データベースへの登録情報の公表は問題とならない可能性がありますが、データセット全体の公表は問題となる可能性があります。

直ちに

知的財産/医療

希少疾病用医薬品及び小児用医薬品については、実施条例第21条に関する実施細則の公布に先立ち、適格要件及び供給義務に関する資料を整備。7年間の市場独占期間は、供給義務違反があった場合には失効する可能性があるためです。

実施条例第21条実施細則の公布前

事業開発

中国に関するライセンス取引、共同開発契約、和解契約及び事業売却契約のひな型並びにデューデリジェンス・チェックリストに、データ依拠同意に関する規定を追加。また、ライセンス導入したデータセットについては、単なる参照権ではなく、独占的権利に基づいていることを確認。

次回の契約ひな型見直し時

 

事業開発/技術運営

ワクチン又は生物学的製剤の現地化を検討している場合には、クラス3.1とクラス3.2で生じる保護期間の違いを比較評価するとともに、製造拠点を決定する前に、承認後の製造拠点移転の取扱いについてCDEへ照会することを検討。

製造拠点決定前


結論

中国は過去10年にわたり、自国を臨床試験の実施先としてより魅力的な法域とするための制度整備に取り組んできました。2026年5月に導入された一連の制度改正は、その結果として得られるデータに初めて明確な法的価値を付与するものとなっています。 次のステップとして、関係事業者は、中国においてどの製品が正式にデータ保護の登録を受けているのかについて監査を実施するとともに、保護期間短縮ルールが廃止されたことを踏まえ、自社の申請順序を改めて見直すことを検討するとよいでしょう。また、クラス3.1とクラス3.2の取扱いの違いを踏まえ、製造拠点戦略についても再検討することが望まれます。 なお、本GT Advisoryと対を成す関連Advisoryでは、本制度改正のもう一つの重要な柱である、再構築されたGCP(Good Clinical Practice)基準及びこれに伴い必要となる契約・試験実施施設に関する変更について解説しています。