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変革を続ける中国:中国における臨床データの価値再評価(第2部)― 再構築されたGCPと9月1日までに見直すべき事項

2026年6月8日、中国の4つの中央政府機関は共同で、2026年9月1日に施行される改訂版の医薬品臨床試験実施基準(Good Clinical Practice。以下、「GCP」)を公布しました。今回のGCPは、従来の基準と比較して大幅に簡略化されていますが、この簡略化こそが重要なポイントです。中国のGCPは、国際医薬品規制調和会議(以下、「ICH」)の E6(R3) を逐条的に再掲するのではなく、これを参照する形で組み込んでおり、さらにスポンサー、受託サービス提供者、治験責任医師及び治験実施施設の間における責任分担を再配分しています。その結果、一部の企業においては、施行日までに既存契約の改訂が必要となる可能性があります。

第1部では、中国における臨床試験データが現在どのような価値を有するに至ったかを取り上げました。本GT Advisoryでは、そのような臨床試験データを生成するために何が求められるのか、及び2026年9月1日の施行までに実施すべき対応について解説します。

想定される企業への影響

  • ベンダー(vendor)による補償条項は、規制当局に受け入れられなかった臨床試験データの問題を解決するものではありません。ベンダーによる補償条項は、企業が負担した実損の帰属を調整するにすぎず、当該GCPを共同で公布した4つの主管当局による協調的な執行措置、臨床試験の一時停止、又は国家薬品監督管理局(以下、「NMPA」)による承認申請資料の受理拒否といったリスクを解消するものでもありません。また、ベンダーによるコンプライアンス違反は、単に試験予算に影響を及ぼすだけでなく、対象製品に係る中国での独占的利益そのものを危険にさらすことになります。
  • 契約面での対応には厳格な期限が設けられています。再委託及び実施施設外への業務委任に関するスポンサーの同意手続、実施施設に支払われる予算が適正市場価格に基づくことを示す根拠資料、並びに保管サンプルの適切な管理体制については、2026年9月1日の施行までに整備を完了させる必要があります。これらは同日以降の臨床試験の実施を規律する基本的ルールとなるためです。
  • 最大のリスクは、臨床試験データが規制当局に受け入れられないことです。金銭的な制裁には一定の上限があります。しかし、真に上限のないリスクは、NMPAが当該データを承認申請の根拠として受理せず、その結果として、第1部で説明した独占的利益を失うことにあります。

Ⅰ. 中国における2026年GCP改訂の概要:適用範囲及び適用対象

改訂版のGCPは、2026年5月21日付の2026年第50号公告に基づき発出され、2026年6月8日に公布されました。2026年9月1日に施行される予定であり、これにより2020年版GCPは廃止されます。 2020年版GCPには2つの共同公布機関しか存在しませんでしたが、2026年改正版は、NMPA、国家衛生健康委員会、国家中医薬管理局及び国家疾病予防控制局の4機関が共同で公布しています。これにより、ワクチン及び伝統医薬(中医薬)に関する臨床試験も単一の制度的枠組みに統合されることとなり、さらに病院の倫理委員会に対する衛生当局の監督権限も制度の中に明確に位置付けられています。これに伴い、各当局による執行及び監督の運用も、より一体的なものとなる可能性があります。

改訂版のGCPの適用範囲は、中国国内の試験実施施設に限定されません。改正された薬品管理法実施条例の第10条では、中国における販売承認取得を目的として中国国外で行われる医薬品開発についても、薬品管理法、同実施条例及び関連する基準及び規範に従わなければならないと規定されており、GCPはそのような基準の1つに該当します。 この規定について、中国の実務家の間では、中国での承認申請を予定した、試験の全てが海外で実施される国際共同試験(multiregional trial)であっても、中国の規制要件を充足し得るとの見解が示されています。もっとも、この解釈は現時点では査察実務において検証されたものではありません。そのため、この点を当然の前提として扱うのではなく、試験実施計画書の設計段階において意識的に判断すべき事項と考えられます。 関係者としては、開発プログラム全体が中国固有の要件のうちどの要件を充足するのかを特定し、その判断を文書化した上で、必要に応じてその判断根拠を説明できるよう準備しておくことが望ましいと考えられます。 特に、ICH E6(R3)に基づく他国の実務と比較した場合に最も差異が生じやすい規制要件としては、インフォームド・コンセントに含めるべき事項、承認された試験実施計画書に定められていない生体サンプルの検査を禁止する規制、並びに直接閲覧及び治験薬サンプルの保管に関する規制が挙げられます。

Ⅱ. 中国の2026年版GCPにおけるICH E6(R3)の導入及び主要なコンプライアンス対応期限

2026年版GCPは6章54条で構成されており、2020年版GCPの9章83条から大幅に簡略化されています。2020年版GCPに存在した「試験実施計画書(Trial Protocol)」、「治験責任医師用資料(Investigator’s Brochure)」及び「必須文書の管理(Essential Documents Management)」という3つの実体的な章は全面的に削除されました。また、用語に関する章は附則に統合される一方で、新たに「データガバナンス(Data Governance)」に関する章が追加されました。 第54条は、定義されていない用語について、中国版ICH E6(R3)の用語集を参照するよう定めています。また、NMPAが公表したQ&A文書では、中国がICH E6(R3)を全面的に導入しているため、運用上の詳細事項は意図的にGCP本文から省略されたことが確認されています。

したがって、中国でのコンプライアンス対応においては、2026年版GCP及びICH E6(R3)の全文を併せて参照する必要があります。中国における手順書や管理体制をGCPのみに基づいて整備しているスポンサーについては、とりわけ削除された上記3分野において不備をきたす可能性があり、GCPのみに基づいてギャップ分析を実施した場合には、これらの分野において誤って問題なしという結果が出てしまうおそれがあります。

これら2つの基準の適用開始時期には5か月のずれがあります。ICH E6(R3)は、NMPAの2025年第125号公告に基づき、2026年3月31日以降に実施される試験に適用されています。一方、改訂版のGCPは2026年9月1日に施行されます。 したがって、両基準の適用開始日の間に実施される試験については、ICH E6(R3)と2020年版GCPが併せて適用されることになります。換言すれば、リスクベース品質マネジメントに関する新たな義務が適用される一方で、削除された各章に定められていた要件についても依然として効力を有することになります。 いずれかの適用開始日をまたぐ形で実施される試験については、どの期間にどの基準が適用されていたかを、日付の付された試験実施計画書、手順書、モニタリング計画及び品質計画の各版とともに、試験マスターファイルに記録しておくことが望ましいと考えられます。このような記録は、試験実施中に適時作成しておく方が、査察時に後から再構築するよりもはるかに容易です。

Ⅲ. 中国の新たなGCPにおけるスポンサー及び治験責任医師の責任:何が変わったのか

  • スポンサーが最終的な責任主体です。 第32条はスポンサーを最終的な責任主体として位置付けています。また、第36条は、適格なサービス提供者への業務委託を認める一方で、スポンサーに対し、当該サービス提供者及びその再委託先に対する監督を求めるとともに、最終的な責任を負うことを義務付けています。これは、委任によって移転することのできない最終的な責任であり、委託先と連帯して責任を負うという意味ではありません。したがって、医薬品開発業務委託機関(以下、「CRO」)との契約に盛り込まれた適切な補償条項は、経済的損失の負担を再配分することはできても、規制上の責任やリスクそのものを移転することはできません。
  • 監督対象となる委託先はCROよりも広範です。 改訂版のGCPは「CRO」ではなく広く「サービス提供者(service providers)」という用語を用いているため、スポンサーによる監督の対象は、CROにとどまらず、中央検査機関、データ収集及び無作為化システムの提供事業者、並びに画像解析コアラボにまで及ぶ可能性があります。そのため、CROのみを対象として構築された監督体制については、対象範囲の拡大が必要となる可能性があります。
  • 試験実施施設においては、治験責任医師(以下、「PI」)が最終的な責任を負います。 第19条はその旨を規定しています。また、第20条は、PIによる試験に関する判断及び重要な確認行為、並びに倫理委員会、医療機関及びスポンサーに対する正式な報告について、原則として委任することができないものとしています。もっとも、同条が列挙している報告先は、規制当局ではなく、倫理委員会、医療機関及びスポンサーの3者に限られている点に留意が必要です。また、「原則として」という文言が用いられていることから、合理的な理由があり、その内容が適切に文書化されている場合には、例外が認められる余地も残されています。

  • Ⅳ. 中国の2026年版GCPが既存の臨床試験契約に与える影響

    GCPには、既存契約の効力を維持するための経過措置規定は設けられていませんが、その一方で、既存契約を再締結することを義務付ける規定も存在しません。GCPが規律するのは契約締結日ではなく、2026年9月1日以降の臨床試験の実施行為です。

    したがって、契約締結時期にかかわらず、2026年9月1日以降に実施される全ての臨床試験は改訂版のGCPを遵守しなければなりません。スポンサーは、単に通知を行うことで再委託を認める従前の契約条項を根拠として、2026年9月1日以降に行われる再委託を正当化することはできません。もっとも、改訂版のGCP上の義務は契約そのものではなく試験の実施行為に課されるものであるため、契約の改訂作業が完了するまでの間は、適切な運用上の統制を導入することにより当該義務を満たすことは可能です。この考え方は、リスクに応じた合理的な対応策を支持するものです。すなわち、新規契約については現時点から改訂後の契約条項を反映させる一方で、既存契約については、契約上これと異なる定めがある場合であっても、2026年9月1日以降は再委託及び施設外委任について事前の書面による承諾を要することを確認する包括的な書面指示を発出し、業務上支障のない迅速性で当該承諾を付与できる社内手続を整備すべきと考えられます。さらに、実際に再委託を行うサービス提供者、施設外委任が行われる試験実施施設、生物学的同等性試験、及び適正市場価格の裏付け資料が不十分な予算案件など、リスクの高い対象を優先しながら、次回の試験実施計画書の改訂又は予算改訂の機会を利用して、段階的に契約改訂を進めることが考えられます。なお、2026年9月1日以前に既に終了した試験実施行為については、遡って是正措置を講じる必要はありません。

    Ⅴ. 中国の2026年版GCP遵守に向けた臨床試験契約改訂チェックリスト

    改訂チェックリスト — 202691日以降の試験実施に関する規定

    · 再委託(第36条)。通知のみで認める再委託条項又は事前承認済みの関連会社への再委託条項を見直し、スポンサーによる事前の書面承諾を必須とする仕組みに置き換える。

    · 施設外委任(第20条)。PI又は医療機関が施設外の第三者に業務を委任する場合には、明示的な事前承諾を要する旨を追加する。

    · 適正市場価格(第36条)。 試験費用は合理的であり、市場慣行に適合していなければなりません。これは臨床試験の品質管理に関する規制の中に適正市場価格基準を組み込むものであり、当事務所の2025年7月のGT Advisoryで取り上げた国家市場監督管理総局の商業賄賂ガイドラインとも関連しています。試験実施施設の予算及び治験責任医師等への支払については、その妥当性を裏付ける文書を整備しておく必要があります。

    · 試験開始前の契約締結(第36条)。試験活動開始前に、PI、医療機関及び全てのサービス提供者との間で契約を締結し、各当事者の役割、責任、権利、義務及び利益相反について明確に規定する。

    · 直接閲覧(第49条)。 モニター、監査担当者、倫理審査担当者及び規制当局による査察担当官が原資料を直接閲覧できることを、試験実施計画書又は契約において明記する。また、これに対応した被験者同意説明(インフォームド・コンセント)文書及び同意取得文言が整備されていることを確認する。

    · 保存サンプル(第28条)。 生物学的同等性試験のサンプルは、製品上市後少なくとも2年間保管しなければなりません。また、当該サンプルをスポンサー又は利害関係を有する第三者へ返還してはなりません。

    · 費用負担及び保険(第45条、実施条例第8条)。治験薬は無償で提供しなければなりません。また、試験に関連する検査費用はスポンサーが負担する必要があります。保険については、試験に伴うリスクに見合った内容で付保しなければなりませんが、試験実施施設の過失に起因する責任はその対象に含まれません。さらに、被験者に試験参加に関する費用を請求してはなりません。

    · スポンサー変更(第50条)スポンサーの変更にはNMPAの承認が必要です。実施条例第9条によれば、NMPAは申請受理後20営業日以内に審査結果を決定しなければなりません。この法定処理期間は比較的短いため、契約締結前に申請準備を行うことにより、クロージングの前提条件(CP)として組み込むことも可能です。また、当該承認申請を誰が担当するのかを契約上明確にするとともに、PI、医療機関及び倫理委員会に対する書面通知をクロージング時の実施事項として予定しておく必要があります。


    Ⅵ. 中国の新たなGCPにおける倫理審査及び被験者保護に関する要件

    第2章は、スポンサーレベルではなく、むしろ試験実施施設レベルでの対応が必要となる可能性がある章です。関係者は、2026年9月1日までに、中国の試験実施施設との間で以下の4点について確認しておくことが望ましいでしょう。

    • 継続審査(follow-up review)はリスクベースで実施され、審査間隔は最長12か月です。 第14条は、リスクの程度に応じて審査頻度を定めるとともに、その間隔が12か月を超えてはならないと規定しています。これは単に年1回の審査を求めるものではありません。各試験実施施設について設定された審査間隔が文書化されており、かつリスク評価に基づいて合理的に説明できるものであることを確認する必要があります。
    • 同意書には権利放棄条項又は免責条項を含めることはできません。倫理委員会は、被験者に対して法的に認められた権利の放棄を求める条項や、PI、医療機関、スポンサー又はサービス提供者の責任を免除する条項が含まれていないことを確認しなければなりません。他の法域では特に問題とされない免責的な文言であっても、中国の倫理委員会による審査を通過しない可能性があります。
    • 特定の事象については、迅速かつ優先的な倫理審査が必要です。これには、重篤な有害事象、緊急の危険を回避するために実施された逸脱、重大又は継続的な不遵守、リスクを増大させる変更、及び安全性に悪影響を及ぼす新たな情報などが含まれます。また、その審査方法は、求められる緊急性の程度に応じた適切なものでなければなりません。
    • 再同意が必要となる場面は、試験実施計画書の変更の場合に限定されません。第27条によれば、被験者の試験への継続参加意思に影響を及ぼし得る新たな情報が得られた場合、未成年の被験者が自ら同意できる年齢又は能力に達した場合、又は被験者が民事行為能力を回復した場合には、いずれも改めて同意を取得しなければなりません。

    • Ⅶ. 中国における臨床試験に関するデータガバナンス、プライバシー保護及び越境移転規制

      第5章は新たに追加された内容であり、実務上最も対応負担の大きい部分です。この章では、試験のライフサイクル全体を通じて、スポンサー、PI及び医療機関の間で、データガバナンスに関する責任が配分されており、第51条から第53条に定められる具体的な要件は、それぞれの主体の役割に応じて異なります。 第51条では、あらゆる情報源から取得されたデータに係る監査証跡を含むメタデータの管理、文書化されたエラー訂正手続及びシステム間における検証済みデータ移転が求められています。 第53条では、システムの設定及び利用に関する手順、文書化された教育訓練、バックアップ及び緊急時対応を含むライフサイクル全体にわたるセキュリティ対策、試験期間を通じたシステムバリデーションの維持、問題の記録及び定期的な見直し、並びに、適用される現地の法令に準拠した電子署名を用いた利用者、アクセス権限及び監査証跡の管理が求められており、アクセス権限については、各利用者の役割、盲検化の状態及び所属組織に応じて設定される必要があります。 第52条では、盲検性の維持をデータガバナンス上の義務として位置付けており、試験開始前に開盲手順を定めること、及び全ての開盲について記録及び評価を行うことが求められています。

      2つの規定が探索的研究の実施範囲をより厳格に制限しています。 第9条は、被験者のプライバシー及び個人情報の安全を中国の法令に従って保護することを求めており、これにより個人情報保護法の順守状況もGCP査察の対象範囲に組み込まれることになります。 また、第37条は、スポンサーに対し、適格な検査機関を選定し、サンプルの管理、検査、輸送、保管及び廃棄を監督することを求めています。さらに、倫理委員会が承認した試験実施計画書とは無関係なサンプル検査を禁止しており、その例として遺伝子検査を明示しています。加えて、同意書には、試験終了後に残余サンプルを保管又は利用するか否か、その保管期間、及びどのような条件で第三者と共有され得るかを記載しなければなりません。

      したがって、承認された試験実施計画書の範囲外で実施されるバイオマーカー解析又はゲノム解析に関するサブスタディは、スポンサーがどのような同意を取得している場合であっても、GCP上認められません。さらに、この要件は、当事務所の過去のGT Advisoryで取り上げたヒト遺伝資源(Human Genetic Resources。以下、「HGR」)規制及び越境移転規制に加えて適用されるため、中国において探索的解析を実施するためには、試験実施計画書及び倫理審査による承認、HGRに関する許認可手続並びに適法な個人情報越境移転の仕組みをそれぞれ独立して備え、その充足を確認する必要があります。このため、中国の試験実施施設を対象とする試験において、試験後期の試験実施計画書改訂によって探索的エンドポイントを追加することについては、改めて検討する必要があります。なぜなら、そのような改訂は、いかなるサンプルの検査を実施する前であっても、まず倫理審査を通過しなければならないためです。

      越境移転

      中国で収集された臨床試験データを、海外のスポンサー、中央検査機関又はデータ収集・管理システムへ移転する場合には、当該移転は個人情報の越境移転に該当します。また、健康データは個人情報保護法(Personal Information Protection Law。以下、「PIPL」)上の敏感個人情報(sensitive personal information)に該当します。そのため、これらの越境移転は、いずれもPIPLを含む適用されるプライバシー及びデータセキュリティに関する規制枠組みの適用対象となります。適用除外事由に該当する場合を除き、適法な越境移転を行うためには、中国国家インターネット情報弁公室(以下、「CAC」)によるセキュリティ審査、届出済みの中国個人情報越境移転標準契約、又は個人情報保護認証の3つのうちのいずれかの仕組みを利用する必要があります。なお、このうち個人情報保護認証については、2026年1月1日施行の関連措置により本格的に利用可能となっています。臨床試験データは敏感個人情報に該当するため、適用される各種閾値についても敏感個人情報向けの基準が適用されます。多くの臨床試験は単独ではCACセキュリティ審査の対象となる閾値を下回ると考えられますが、同一のデータ輸出者については、毎年1月1日以降に移転されたデータ量が累積的に集計されるため、中国で複数の開発プログラムを同時に実施しているスポンサーは、個々の試験ではなく、全体のデータ移転量を集計して評価する必要があるかもしれません。また、「契約履行のために必要な移転」に関する適用除外が当然に利用できると考えるべきではありません。CACは2025年10月、適用除外規定は限定的に解釈されるべきであることを確認しており、スポンサーと試験実施施設との間で締結される臨床試験契約は、被験者自身が当事者となる契約には該当しません。したがって、臨床試験契約の存在のみを理由として、当該適用除外の利用を前提とすることは困難と考えられます。さらに、2026年1月1日に施行された改正サイバーセキュリティ法(Cybersecurity Law)にも留意が必要です。同法は課徴金・罰金の上限額を引き上げるとともに、罰金を科す前に警告が行われることを当然の前提としない制度へ改めています。

      Ⅷ. 中国の2026年版GCPにおける執行リスク、罰則及び試験データの不受理

      リスク要因

      根拠及び帰結

      GCP不遵守

      薬品管理法第126条に基づき、是正命令及び警告が科されます。是正されない場合には10万元以上50万元以下の罰金が科されます。重大な違反である場合には、50万元以上200万元以下の罰金に加え、業務停止命令並びに承認証明書及び許可証の取消しまで科される可能性があります。臨床試験実施施設については、最長5年間にわたり試験の実施を禁止される場合があります。責任者個人に対しては、違反期間中に得た収益の没収、その10%以上50%以下に相当する罰金、及び10年から終身にわたる医薬業界への従事禁止処分が科される可能性があります。

      安全性報告義務違反

      薬品管理法第127条に基づき、安全上の問題を発見したにもかかわらず、試験実施計画書の修正、臨床試験の停止若しくは中止を行わず、又は報告を怠った場合には、是正命令及び警告が科されます。是正されない場合には、10万元以上50万元以下の罰金が科されます。

      試験の停止又は中止

      NMPAは、リスクが認められた場合、試験実施計画書の修正、臨床試験の停止又は中止を命じることができます。被験者組入れ中のピボタル試験(pivotal program)については、その結果生じる事業上の損失が、課される罰金額を上回る可能性があります。

      試験データの不受理

      薬物臨床試験機構管理規定では、NMPAは、所定の届出がなされていない機関で実施された試験データを受理しない旨が定められています。また、情報の隠蔽又は虚偽情報の提出があった場合には、当該機関の届出を取り消すことがある旨も規定されています。査察において検証することができないデータは、承認申請において利用することができません。

      海外のスポンサーに関しては、一点留意すべき点があります。薬品管理法第126条は、その文言上、医薬品上市許可保有者、製造業者、販売業者及び臨床試験機関を対象としています。そのため、まだ中国における医薬品上市許可保有者ではない海外のスポンサーに対して同条がどのように適用されるのかについては、必ずしも明確に整理されていません。実務上は、海外のスポンサーに対する主なリスクは、直接的な罰金ではなく、臨床試験の停止、試験データの不受理、及び臨床試験機関若しくはPIに対して科される行政処分等の影響という形で生じる可能性があります。 しかし、これは決して安心材料ではありません。むしろ、海外のスポンサーにとって実質的な脅威となる制裁は、臨床試験データという資産そのものの価値を失わせる制裁であり、また、契約によってリスクを転嫁することが最も困難な制裁であることを意味します。

      このため、GCPの重要性は中国国内にとどまりません。中国で得られた試験データは、特に希少疾患研究を中心として、ますますグローバル開発プログラムにおいて利用されるようになっています。そして、米国食品医薬品局(FDA)の元長官代行であるジャネット・ウッドコック(Janet Woodcock)氏は、2026年6月に上海で、中国由来のデータについて次の趣旨を述べました。すなわち、世界がこうしたデータにどこまで依拠するかは、中国で実施される試験の厳格性及び品質に左右されるということです。 ICH E6(R3)の全面的な導入、データガバナンスに関する章の新設、及び委任不能な責任の明確化は、いずれも海外の規制当局が評価対象とする重要な要素です。したがって、コンプライアンスは単なる中国法上の義務ではなく、当該データの国際的な利用可能性を確保するための前提条件でもあります。この点は、旧制度下で生成された医師主導治験(Investigator-Initiated Trial)のデータを基盤として開発を進める際に特に考慮すべき事項といえます。

      これとは別に、2026年7月3日、NMPAは「細胞・遺伝子治療製品の審査承認の最適化に関する公告」草案を公表し、パブリックコメントの募集を開始しました。NMPAがこの製品分野を個別に取り上げたのはこれが初めてです。同草案によれば、要件を満たす製品については、革新的新薬の臨床試験審査に適用される30日間の審査ルートの対象となります。また、市販後製品に関する重大な製造工程変更について、登録査察及び登録検査を要する補充申請の審査期間は、従来の200営業日から130営業日へ短縮されます。同草案は、悪性腫瘍、希少疾患、遺伝性疾患、免疫系疾患及び神経変性疾患を主な対象としており、中国において実施される国際共同治験及びグローバル同時開発を明示的に奨励しています。また、中国医薬品評価センター(CDE)は同日、細胞治療製品及び遺伝子治療製品の範囲及び分類に関する技術ガイドラインを公表し、当該ガイドラインは公表日から施行されました。パブリックコメントの募集期間は2026年8月3日に終了しています。同草案は、2026年5月1日に施行された国務院令第818号の「生物医学新技術の臨床研究及び臨床応用転化管理条例」により確立された二本立ての規制体系(dual-track system)と並行して運用されるものです。

      30日間の臨床試験審査ルートと6年間のデータ保護期間が組み合わされることで、中国は、ファースト・イン・クラスの細胞・遺伝子治療製品(first-in-class cell and gene therapies)にとって、世界でも特に魅力的な最初の承認申請国となる可能性があります。

      Ⅸ. 中国の2026年版GCP施行に向けた準備

      上述した変更点を踏まえて、関係者は以下の対応を検討してもよいでしょう。

      担当部門

      対応事項

      時期

      法務

      サービス提供者及び試験実施施設に対し、契約条項にこれと異なる定めがある場合であっても、2026年9月1日以降は再委託及び施設外委任について事前の書面による承諾を要することを確認する包括的な書面指示を発出し、業務上支障のない迅速性で当該承諾を付与できる社内手続を整備する。

      直ちに

      法務

      契約改訂チェックリストを全ての新規契約に適用した上で、実際に再委託を行うサービス提供者、施設外委任が行われる試験実施施設、生物学的同等性試験、及び適正市場価格の裏付け資料が不十分な予算案件など、リスクの高い対象を優先しながら、既存契約の改訂を順次実施する。

      新規契約については直ちに、その後は順次実施

      法務/コーポレート

      中国で被験者組入れを行う臨床試験に関わる取引については、スポンサー変更に係るNMPA承認手続を取引チェックリストに追加し、法定の20営業日審査期間を前提条件(CP)として組み込む。

      次回の対象取引から

      臨床開発

      2026年版GCP及びICH E6(R3)全文を併せてギャップ分析を実施する。特に、2026年版GCPから削除され、現在はICH E6(R3)のみによって規律される3つの章(「試験実施計画書」「治験責任医師用資料」及び「必須文書の管理」)に重点を置く。

      2026年9月1日まで

      品質保証/IT

      第5章に基づき、コンピュータ化システムの妥当性確認を実施する。具体的には、監査証跡の完全性、メタデータの記録、役割及び盲検化に応じたアクセス制御、バックアップ及び緊急時対応、並びに電子署名に関する要件への適合性を確認し、その妥当性が各試験期間中継続して維持されていることを文書化する。

      2026年9月1日まで

      臨床開発

      中国国内の各試験実施施設について、倫理審査委員会による継続審査の間隔がリスクに応じて設定され、かつ文書化されていること、同意書のひな形に権利放棄条項又は免責条項が含まれていないこと、並びに再同意取得の要件に新たな安全性情報の判明及び被験者の意思決定能力の変化が含まれていることを確認する。

      2026年9月1日まで

      臨床開発/法務

      バイオマーカー、ゲノム情報又は残余検体を利用する全ての試験実施計画書について、倫理審査で承認された試験実施計画書との整合性を確認するとともに、HGRに関する承認・届出等の要件及び適法な越境移転の仕組みが、それぞれ独立して整備されていることを確認する。

      2026年9月1日まで

      臨床開発

      2026年3月31日又は9月1日をまたいで実施される試験については、それぞれどの期間にどの基準が適用されていたかを試験マスターファイルに記録する。

      同時並行で実施


      結論

      改訂版のGCPは、従来の規制を単に再整理し、重点項目を変更しただけのものではありません。改訂版のGCPは、その内容を完結したものとするためにICH E6(R3)への依拠を前提としており、また、契約上の事前承諾手続を必要とする形でスポンサーの監督責任を強化しています。さらに、臨床試験の実施を、中国の個人情報保護制度及びHGR規制と密接に結び付けています。第1部で説明したデータ保護を中心とする独占保護体系と併せてみると、そのメッセージは一貫しています。すなわち、中国の臨床試験データは従来よりも高い価値を持つ資産となった一方で、その創出及び維持には従来以上のコンプライアンス対応及びコストが求められるようになったということです。