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中国における輸出管理と出国禁止措置の連携:国務院令第841号が多国籍企業に与える影響

2026年7月22日、中国国務院は、新たな出入国管理規則である「出入国管理に関する国務院規定」(国務院令第841号)(以下、「本規則」)を公布しました。本規則は、特に技術集約型産業を含む、中国で事業を行う、又は中国と取引関係を有する多国籍企業にとって注視すべき内容を含んでいます。本規則は2026年9月15日に施行されました。

本規則は主として中国の出入国管理制度を強化するものですが、その中でも、国境を越えた事業活動への影響という観点から特に注目される規定があります。当該規定は、中国の輸出管理規制又は技術輸出入管理規制への違反が、国家の産業又は技術の安全を害するおそれがある場合、中国国民に対して出国禁止措置を課す根拠となり得ることを明確に規定しました。これにより、中国国籍の従業員、技術者、研究者又は経営幹部は、特定の状況下において、輸出管理又は技術移転に関する懸念を理由として、事前の通知なしに、中国からの出国を禁止される可能性があります。

多国籍企業にとって、その実務上の影響は決して小さくありません。国境を越えた人材の移動、共同研究開発、技術協力契約、及び社内コンプライアンス体制の全てが影響を受ける可能性があります。もっとも、本規則は、輸出管理関連の理由に基づく出国禁止措置の期間について明示していません。また、現時点では実施細則や行政ガイダンスも公表されていないため、適用範囲や具体的運用に関する重要な論点については、なお明らかになっていません。

本GTアラートでは、本規則の主要な規定について概説するとともに、中国の輸出管理制度と出入国管理制度の接点に焦点を当てて解説します。その上で、中国と海外拠点との間で人材の往来が多い企業や、中国企業との技術関連の協力を行う企業を中心に、多国籍企業に対する実務上の影響について考察します。

重要なポイント

  • 中国は、特定の輸出管理及び技術輸出管理に関する違反行為と出国禁止措置権限の連携を明確に示しており、特定の状況下では、中国国民の移動に制約が生じる可能性があることを明らかにしました。
  • 中国国籍の従業員や役員は、事前の通知なく出国禁止措置の対象となる可能性があり、その結果、計画されていた海外出張、海外赴任、又は駐在員の配置転換に支障が生じるおそれがあります。
  • 半導体、人工知能、通信、バイオテクノロジー、先端製造業などの技術集約型産業は、本規則の影響を受ける可能性が特に高いと考えられますが、本規則の適用範囲はこれらの産業分野に限定されるものではありません。
  • 本規則は、輸出管理コンプライアンスと人材移動の双方に関わる問題への対応において、部門横断的な連携の重要性を示しています。そのため、多国籍企業は、国境を越えた人材配置の計画、共同研究の実施体制及び社内コンプライアンス体制について、見直しを検討することが望ましいと考えられます。

1.国務院令第841号の概要

(1)制定の背景

本規則の公布後に中国の司法部、公安部及び国家移民管理局の担当者が公表した説明によれば、本規則は、2013年施行の「中華人民共和国出境入境管理法」を補完するとともに、出入国管理を取り巻く新たな課題に対応するために制定されたものです。本規則の制定目的としては、中国国民の出国に伴う安全リスクへの対応、中国に入国する外国人に対する管理監督の強化、及び出入国仲介サービス市場の規律強化が挙げられています。

(2)中国国民の出国に関する規制

本規則第3条は、中国国民を含む出入国者による出入国、滞在又は居住に関する申請理由が「真実かつ適法」でなければならないと規定しています。また、出入国管理当局及び査証当局は、申請者の身元又は申請理由の確認のため、必要と認められる場合、関連文書、資料又は電子データの提出を求めることができます。さらに、同条は、招聘状その他の証明資料を発行した組織又は個人が、その招聘理由及び証明事項の真正性について責任を負うとともに、関係当局による確認に協力しなければならないと規定しています。

また、本規則第2条は、中国国民の出国に伴う安全リスクへの対応について規定しています。本規則に基づき、外交部、文化・観光主管当局、在外中国大使館・領事館、及びその他の関連当局は、武力紛争、治安状況の著しい悪化、自然災害、感染症の発生、又はこれらに類する事由が発生した場合、外国の渡航先に関する安全勧告やリスク情報を公表することができます。

さらに、本規則第4条は、中国国民に対する出国禁止措置の規制枠組みについて規定しています。その例としては、以下が挙げられます。

  • 出入国証件(旅券、査証その他の出入国関係書類)の不正取得又は不法出入国により行政拘留処分を受けた者については、当該処分の執行完了後、6か月以上3年以内の出国禁止措置を課すこと。
  • 国外において中国の国家安全又は国家利益を害する違法行為又は犯罪行為に従事した者について、中国への帰国後、6か月以上3年以内の出国禁止措置を課すこと。

(3)外国人に対する入国管理

本規則第5条は、外国人の中国への入国に関する規則を定めており、その内容には以下が含まれます。

  • 外国人が中国の査証申請又は入国審査に関連して虚偽資料を提出し、又は虚偽説明を行った場合には、1年以上5年以内の入国禁止措置を課すこと。
  • 不法出入国、出入国証件の不正取得、国境管理妨害、又はこれらに類する行為により、刑事処罰又は行政処分を受けた外国人については、当該処分の執行完了後、1年以上5年以内の入国禁止措置を課すこと。
  • 中国の反外国制裁法に基づく対抗措置リスト(Countermeasure List)、信頼できないエンティティリスト(Unreliable Entity List)、又はその他の制裁関連リストに掲載された外国人については、査証発給拒否、入国禁止、又はその他の制限措置を講じること。

これらの規定は、中国の出入国管理制度が単なる出入国管理の仕組みにとどまらず、中国の国家安全保障及び経済安全保障政策を実施するための手段としても位置付けられていることを示しています。

(4)出入国仲介サービス事業者に対する規制

本規則第7条から第10条は、出入国仲介サービスに関する新たな規制枠組みを定めています。

第7条は、出入国政策に関するコンサルティング、査証取得支援、出入国手続支援等のサービスを提供する事業者及び従事者について備案(届出)制度を導入しています。事業者は設立後15日以内に、管轄する地方の出入国管理当局へ届出を行わなければなりません。また、本規則の施行前から既に事業を行っていた事業者については、施行日から90日以内に届出を完了することが求められます。

また、第8条は、出入国仲介サービス事業者に対し一定の人員体制、運営体制、及び内部管理体制を備えることを義務付けています。一方、第10条はとりわけ以下の行為を禁止しています。

  • 虚偽又は誤解を招く広告による顧客勧誘
  • 虚偽の申請書資料の作成又は提供支援
  • 出入国証件の不正取得への関与
  • 顧客の個人情報又は営業秘密の漏えい
  • 出入国管理秩序を乱す行為

さらに、第11条は、虚偽の招聘状その他の虚偽申請資料を発行した場合の罰則を定めています。個人に対しては5,000元以上1万元以下、法人に対しては1万元以上5万元以下の罰金が科される可能性があります。また、不法に得た利益がある場合には、その没収もされることがあります。

2.輸出管理と出国管理の交錯

本規則の規定のうち、輸出管理及び技術輸出入管理に関する第4条は、多国籍企業において特に注目すべき規定といえます。

第4条は、次のように規定しています。

「中国国民が輸出管理規則、技術輸出入管理規則、又はその他の関連規定に違反し、国家の産業安全又は技術安全を害するおそれがある場合、国務院商務主管部門その他の関係部門は、当該者の中国からの出国を許可しないことを決定することができる。」

(1)輸出管理制度と出入国管理制度の連携

本規則の重要性は、単に出国禁止措置の根拠事由をより具体的に規定したという点にとどまりません。むしろ、本規則は、中国の輸出管理制度と出入国管理制度を規制レベルで連携させているという点に特徴があります。

従来の輸出管理コンプライアンスは、一般に以下のような行為を対象としていました。

  • 物品の輸出
  • 技術データの国外移転
  • ソフトウェアの移転
  • ノウハウの共有

これに対し、本規則は、特定の状況下において、輸出管理及び技術輸出管理規制に対する違反が、管理対象技術へのアクセス権限を有する個人の越境移動そのものにも影響を及ぼす可能性があることを示唆しています。

もっとも、本規則が、研究者、技術者、及びその他の専門家の海外渡航を直ちに制限するものと解釈するべきではありません。また、本規則は、どのような場合に個人が中国の産業安全又は技術安全を害するおそれがあると判断されるのかについても明確に規定していません。

これに対し、米国の輸出管理規則(Export Administration Regulations、以下、「EAR」)は、主として物品、技術及びソフトウェアの移転を規制対象としています。EARの下で人的接触が問題となる場合、それは通常、その接触を通じて技術又は技術情報の移転行為が行われることが理由であり、人の移動そのものが規制対象となっているわけではありません。

一方で、本規則は、輸出管理又は技術移転に関する懸念を理由として出国を制限することを想定しており、この点において、中国の出入国管理制度が輸出管理規制を執行するための手段として機能し得ることを明示しています。

(2)輸出管理関連の出国禁止措置の期間規定はない

前述のとおり、本規則第4条は、不法出入国などの違反行為に対して、6か月以上3年以下の出国禁止期間を定めています。しかしながら、本規則は、輸出管理規制又は技術輸出入管理規制の違反を理由として課される出国禁止措置の期間については、具体的に定めていません。

今後、実施細則や行政ガイダンスにおいて、こうした措置がどのように運用されるのかについて、より具体的な説明が示される可能性があります。もっとも、制度設計上の観点からは、本規則における輸出管理関連の出国禁止措置の取扱いについては、明確な期間規定を設けていないという点で、他の類型の出国禁止措置とは異なるアプローチを採用していることがうかがえます。

(3)通知要件及びその例外

本規則第6条は、出国禁止措置を課す場合、原則として、対象者に対し以下の事項を書面で通知しなければならないと規定しています。

  • 出国禁止措置が課された事実
  • 当該措置の理由
  • 当該措置の法的根拠
  • 利用可能な不服申立てその他の救済手段

他方で、第6条は、通知を行うことによって国家安全に影響を及ぼすおそれがある場合、又は刑事捜査に支障を生じさせるおそれがある場合には、当局が通知を差し控えることを認めています。こうした通知の例外が、輸出管理又は技術移転に関連する出国禁止措置の文脈においてどのように適用されるのかについては、現時点では明らかではありません。しかしながら、理論上は、特定の状況下において、対象者に対して事前の通知なしに出国禁止措置が課される可能性を排除することはできません。

3.多国籍企業に対する実務上の影響

本規則は、輸出管理及び技術輸出入管理に関する事項との関係で出国禁止措置を導入するものであることから、半導体、人工知能、通信、バイオテクノロジー及び先端製造業などの技術集約型産業に加え、中国と海外拠点との間で技術者、研究者及びその他の人材の移動が多い企業にとって、特に重要な意味を持つ可能性があります。

他方で、現時点では実施細則や行政ガイダンスは公表されておらず、その具体的な適用範囲や運用基準については依然として明らかではありません。

(1)中国国籍従業員及び役員の越境移動

中国国籍の従業員及び役員の国境を越えた移動は、ビジネスミーティング、研修プログラム、技術交流、研究開発活動、又はプロジェクトの実施など、多くの多国籍企業において重要な経営上の要素となっています。このような移動には、中国に拠点を置く事業体から海外の関連会社への赴任だけでなく、海外のグループ会社に雇用されている中国国籍従業員が中国へ出張又は赴任し、その後海外の勤務地へ戻るといったケースも含まれます。

本規則が、輸出管理と出国管理とを明示的に結び付けていることを踏まえると、こうした人材移動を管理するに当たっては、従来の人事管理や出張管理上の考慮事項だけでなく、中国の輸出管理制度及び技術輸出入管理制度についても考慮する必要があると考えられます。

特に注目すべきは、本規則第6条が、特定の状況下において、当局が出国禁止措置に関する通知を行わないことを認めている点です。この取扱いが輸出管理及び技術移転に関する事案において適用されるかどうかは現時点では不明です。しかし、理論上は、出国禁止措置の対象とされた中国国籍の従業員や役員が、予定されていた海外出張、海外赴任、又は中国からの帰任・帰国の直前になって初めて、出国が許可されないことを知ることになる可能性を完全に排除することはできません。

したがって、多国籍企業としては、中国国籍の従業員が関与する重要な出張、海外赴任、役員の異動、又は駐在員の配置転換について、通常よりも余裕を持ったスケジュール設定を行うとともに、代替要員の確保を検討しておくことが望ましいと考えられます。

(2)共同研究開発活動への潜在的な影響

本規則は、中国企業、大学、研究機関、又はその他の中国側のパートナーとの共同研究、共同開発、又は技術協力に従事する企業にとっても重要な意味を持つ可能性があります。

共同研究開発プロジェクトには、通常、以下のような活動が含まれます。

  • 技術データの共有
  • ノウハウの提供
  • 技術評価の実施
  • 研究成果の共同利用
  • 技術者及び研究者の相互交流

こうした活動は、中国の輸出管理制度及び技術輸出入管理制度に関連する問題を伴うことが少なくありません。そのため、多国籍企業としては、自社の法域の輸出管理規制上の要件を検討するだけではなく、関連する技術移転や情報共有が中国法上どのように評価され得るのかについても、中国側パートナーとの間で共通の理解を形成することがますます重要になると考えられます。

ある法域の法令上は許容される技術移転であっても、中国の輸出管理及び技術輸出入管理規制の下では懸念が生じる可能性があります。このような場合、本規則による影響は、当該技術移転自体にとどまらず、出張、技術会議、研究交流、又はその他のプロジェクト活動にまで影響が及ぶ可能性があります。

したがって、共同研究契約、技術協力契約、又は類似の取り決めを交渉する際には、企業は、コンプライアンス条項や情報共有手続に加え、関連する活動が中国の輸出管理及び技術輸出入管理規制上の要件に該当するか否か、また、中国側において許可、承認、その他の規制手続が必要となる可能性があるかについても検討することが望ましいと考えられます。

(3)社内コンプライアンス体制への示唆

本規則は、中国に関連する越境的な人事問題や技術関連プロジェクトを管理するに当たり、人事部門、輸出管理・経済安全保障コンプライアンス担当部門、法務部門及び関係する事業部門の間における部門横断的な連携の重要性を改めて浮き彫りにしています。

4.結論

国務院令第841号は、主として中国の出入国管理制度について規定しています。しかしながら、本規則は、輸出管理及び技術移転に関する考慮事項を出国管理と明示的に連携させているため、多国籍企業にとっても重要なかかわりを有するものと考えられます。今後、関連する実施細則や執行実務が具体化されていく中で、中国国籍者が関与する海外出張、海外赴任、又は技術協力プロジェクトを管理する企業としては、中国の輸出管理及び技術輸出入管理制度の観点からどのような影響が生じ得るかについて、その動向を注視するとともに、自社への影響を評価することが望ましいと考えられます。