2026年6月22日、米国財務省外国資産管理局(以下「OFAC」)は、イラン産原油及び関連製品に関する幅広い取引を許可する一般ライセンスX (General License X)(以下「GL X」)を発行しました。これは、2026年6月17日に米国とイランの間で署名された、緊張緩和に向けて的を絞った制裁緩和の枠組みを定める14項目の覚書(以下「MOU」)の締結を受けたものです。
MOUは、双方が交渉を継続しつつ初期措置を実施するための期間として、60日間(延長可能)を設定しています。当初の段階では限定的な制裁緩和措置が予定されており、特にイランの核問題に関する協議の進展次第ではさらなる緩和の可能性も示されています。
制裁関連の対応は、国際緊急経済権限法(IEEPA)等の既存の法的権限に基づき、OFACによる適用除外(ウェイバー)やライセンスの付与といった行政措置を通じて実施される見込みです。OFACによるGL Xの発行は、こうした制裁緩和に向けた初期的な動きの一つと位置づけられます。米国はまた、交渉期間中は新たな制裁を課さないことに加え、適切なライセンス制度を通じて一部のイラン関連資金の利用を認めることも約束しています。
制裁緩和の方向性と今後の展望
MOUは、今後想定される包括的な枠組みの一環として、米国の一次的・二次的制裁や一部の多国間制裁の解除を含む、より広範な制裁緩和の可能性を示唆しています。もっとも、そのような制裁緩和の実施は、交渉の結果や今後合意される実施タイムラインに加え、イランによる約束事項の遵守が確認されるかどうかに左右されます。
既に一部の対応は始まっているものの、核開発に関する制約や長期的な制裁緩和といった、より複雑な論点については、今後の協議に委ねられています。
核開発関連の新たな合意が締結される場合には、2015年イラン核合意審査法(以下「INARA」)の適用対象となる可能性があります。INARAは、当該合意の米国議会への提出を義務付けるとともに、一部の制裁緩和の発効を留保する審査期間を定めています。米国議会は、こうした合意の承認又は不承認に関する共同決議を検討することも可能です。また、INARAは、イランの遵守状況に関する継続的な報告・認証義務も定めています。実務上、一部の制裁の解除には、米国議会の関与が必要となる場合があります。
コンプライアンス上の留意点
上記のような動きがある一方で、イランは依然として包括的な米国制裁の対象であり、OFACによる許可が付与された範囲を除き、既存の規制は引き続き適用されます。また、最近のOFACによるイラン関連事案への執行状況からも、制裁緩和に向けた具体的な措置が示されない限り、コンプライアンス環境に実質的な変化は生じていないことがうかがえます。
企業としては、イラン関連の活動について適切な許可を得ていることを確認するとともに、規制動向を継続的に注視し、強固な制裁コンプライアンス体制を維持しながら慎重に対応することが求められます。さらに、交渉の進展に伴い、今後状況が変化する可能性にも留意する必要があります。
GL X:適用範囲と実務上の影響
GL Xは、2026年8月21日まで、イラン産原油、石油化学製品及び石油製品に関する広範な取引を許可しています。
具体的には、イラン産原油、石油化学製品及び石油製品の生産、販売、引渡し及び荷卸しに通常付随して必要となる取引が許可されており、これには、海運、保険、金融、船舶運航その他の幅広い海上関連業務が含まれます。また、対象取引に関連する限りにおいて、イラン又は制裁対象者が関与する米ドル建て決済(これまで長らく禁止されてきたもの)も許可されています。GL Xでは、当該製品の販売、引渡し又は荷卸しに通常付随して必要となる場合に限り、イラン産原油、石油化学製品及び石油製品の米国への輸入も認められています。
なお、前述のとおり、GL Xは期間限定であり、2026年8月21日に失効するという重要な制約があります。また、北朝鮮、キューバ及びウクライナの特定地域を含む包括的制裁対象国・地域に所在する者又はその法律に基づいて設立された者が関与する取引は許可されません。さらに、他の適用法令の下で禁止されている行為についてはGL Xで認められている場合を除き、引き続き禁止されます。
GL Xはまた、イスラム革命防衛隊(以下「IRGC」)を含む指定外国テロ組織(FTO)が関与する取引を許可していません。IRGCは依然としてイランのエネルギー部門に深く関与しています。そのため、これらの組織が直接又は間接に関与する取引は、指定テロ組織への支援提供とみなされるなど、重大な法的リスクが生じる可能性があります。特に、ホルムズ海峡を通行する船舶に通行料を課している「ペルシャ湾海峡当局(PGSA)」等、IRGCが利用する組織や団体の存在が、そのリスクを一層高める要因となっています。こうした組織への協力又は支払いは、IRGCへの支援提供として制裁上の責任を問われる可能性があります。
他のすべてのOFAC一般ライセンスと同様、GL Xはいつでも修正、停止又は撤回される可能性があります。したがって、GL Xを利用する企業は、継続的なコンプライアンス監視を強化するとともに、対象取引がライセンスの範囲内にとどまっていること、またライセンスで認められていない当事者や活動が含まれていないことを継続的に確認することが重要です。