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仲裁手続のための米国ディスカバリーの利用 — 28 U.S.C. §1782の適用上の制約を踏まえたニューヨーク州法上の代替手段

(原文:“New York Statute Offers Alternative Mechanism for Seeking Discovery in Aid of Private Arbitration Given Narrowed Scope of 28 U.S.C. § 1782” https://www.gtlaw.com/ja/insights/2023/2/new-york-statute-offers-alternative-mechanism-for-seeking-discovery-in-aid-of-private-arbitration)

Go-To Guide:

  • 米国最高裁は、最近の判断で、28 U.S.C. § 1782が商事仲裁には適用されないと判断した。
  • ICSIDの投資仲裁の当事者も、1782に基づいて米国でディスカバリーを求めることはできない。
  • ニューヨーク州のCPLR §3102(c)は、代替的なディスカバリーの手段として利用できる可能性がある。
  • CPLR §3102(c)は、仲裁前および仲裁中の両方で利用可能である。

2022年6月13日に、米国最高裁判所は、ZF Automotive US, Inc. v. Luxshare, Ltd.において、合衆国法典28編セクション1782(以下「§1782」)の適用範囲を限定的に解し、§1782が「foreign or international tribunal(外国又は国際審判廷)」に関連する「governmental or intergovernmental adjudicative body(政府又は政府間の審判機関)」のみを対象とし、また、§1782が商事仲裁には適用されないと判断しました。この判決により、米国巡回区控訴裁判所(circuit courts)間の見解の相違(circuit split)が解消されることになりました。具体的には、第2、第5、第7巡回区控訴裁判所は、§1782の「foreign or international tribunal」には民事の仲裁廷は含まれないとし、他方、第4、第6巡回区はこれとは反対の見解を有していました。

ZF Automotiveの判決は、投資紛争の解決のため構成されたICSID仲裁廷が、§1782の「foreign or international tribunal」に該当するかどうかについて、明確に判断していませんでした。最近のニューヨーク州の東部地区・南部地区の判決では、§1782の適用をさらに制限的に解釈して、投資紛争の解決のためのICSID仲裁廷は§1782の「foreign or international tribunal」に該当しないと結論づけました。2022年のニューヨーク州地方裁判所の判決(In re WebuildIn re Alpene)では、ZF Automotiveで問題となったUNCITRAL仲裁規則[1]に基づく仲裁廷と、締約国間の投資協定に基づくICSID仲裁廷の両者に大きな違いはないとしています。そして、締約国は、ICSID仲裁廷に「governmental authority(政府としての権限)」を付託する意図までは示しておらず、ICSID仲裁廷は「governmental or intergovernmental adjudicative body」ではないから、§1782に基づく支援を得ることはできないと判断しました。

最高裁判所とそれに引き続く連邦地裁の判決は、§ 1782の適用範囲を狭め、同条に基づく限り、政府または政府間に関わる手続の当事者でなければ外国のディスカバリーを求めることができないとしました。もっとも、商事仲裁の当事者は、ニューヨーク州のCivil Practice Law and Rules(以下「CPLR」)§3102を利用し、ニューヨーク州裁判所の管轄下にある当事者から、仲裁手続のために、ディスカバリーを求めることが出来る可能性があります。

具体的には、CPLR§3102(c)は次のように規定しています。

Before an action is commenced, disclosure to aid in bringing an action, to preserve information or to aid in arbitration, may be obtained, but only by court order. The court may appoint a referee to take testimony.(訴訟が開始される前の、訴訟の提起のため、情報の保全のため、または仲裁の援助のため、裁判所の命令によってのみ、証拠開示を受けることができる。裁判所は、証言を得るために審理人を任命することができる。)

CPLR §3102(c)に基づき、当事者は、仲裁手続のためのディスカバリーを得るために、特別の手続を開始することができます。この特別の手続は、仲裁手続のためのディスカバリーを求める申立の告知または理由開示命令および申立てによって開始されます。Bumpus v. New York City Transit Auth., 66 A.D.3d 26, 33 (2009).

当事者は、CPLR § 3102(c) に基づき、仲裁手続のためのディスカバリーを求め、本来の仲裁手続や仲裁規則によれば入手できない証拠の開示を得られる可能性があります。例えば、当事者は、手続を維持しうる訴因があると判断した場合、CPLR § 3102(c) を使用して、訴因の整理を行い、相手方となり得る者の身元の特定を行うことができます。Leff v. Our Lady of Mercy Acad., 150 A.D.3d 1239, 1240 (2017)。そのほか、In re Vtrader Pro, LLC, 24 Misc.3d 828, 830-31 (Sup. Ct. 2009)(FINRA 仲裁に関する正当な当事者の開示を命じる命令)。Matter of Moock v. Emanuel, 99 A.D.2d 1003, 1004 (1984)(仲裁手続のためのパートナーシップの帳簿や記録の開示命令); Urb. v. Hooker Chemicals & Plastics Corp., 75 A.D.2d 720, 720 (1980)(訴状を整理するための、関係者の特定と関連する記録の開示を命じる命令)。

CPLR § 3102(c)の下で仲裁手続のためのディスカバリーを求める当事者は、特別の事情が存在することを示さなければなりません。Guilford Mills, Inc. v. Rice Pudding, Ltd., 90 A.D.2d 468, 468 (1982)その基準は、convenience(利便性)でなくnecessity(必要性)です。Hendler & Murray, P.C. v. Lambert, 127 A.D.2d 820, 820 (1987)では、被申立人が「仲裁人に適切な事例を提示するために」文書が必要であることを証明したため、裁判所は仲裁手続のために要求したディスカバリーを許可するにあたって裁量を逸脱しなかったと結論づけています。

CPLR §3102(c)により、商事仲裁手続のためのディスカバリーを求めることはそう多くないかもしれませんが、§1782の適用上の制約を考慮すると、有用な代替手段として機能する可能性はあるといえます。例えば、Zampolli v. Range Devs., 2019 WL 5394487, at *2 (N.Y. Sup. Ct. Oct. 22, 2019)(申立人が、「要求された書類が『仲裁において適切な事例を提示するために』必要である」と証明した場合において、ロンドンで係属中の仲裁の援助のため、相手方企業に対し、CPLR §3102(c)に基づく文書提出命令状に回答するよう命令)。Cusimano v. The Strianese Family Ltd., Inc. Partnership2010 WL 3974909N.Y. Sup. Ct. Oct. 05, 2010(仲裁手続のために CPLR 3102(c) に従ってデポジションを命じ、CPLR § 3102(c)は仲裁に付託された問題で開示を命じる権限を裁判所に与えると説明)。Nationwide Affinity Ins. Co. v. Mannese, 2017 WL 2261146, at *3 (N.Y. Sup. Ct. Apr. 04, 2017) (保険仲裁を停止し、CPLR 3102(c)に基づいて仲裁前の未対応の開示要請に従うよう強制); New York Cent. Mut. Fire Ins. Co. v. Serpico, 45 A.D.3d 598 (2007) (仲裁手続のためのディスカバリーを行うための、保険会社による無保険車傷害に関する仲裁手続の一時的な停止要求を否定し、保険会社の申立ての一部を却下)。

1782 と CPLR § 3102(c)の比較

Section 1782

CPLR § 3102

規程内容(原文)

“The district court of the district in which a person resides or is found may order him to give his testimony or statement or to produce a document or other thing for use in a proceeding in a foreign or international tribunal, including criminal investigations conducted before formal accusation. . .”

“Before an action is commenced, disclosure to aid in bringing an action, to preserve information or to aid in arbitration, may be obtained, but only by court order. The court may appoint a referee to take testimony.”

開始

「foreign or international tribunal」が発行し、または利害関係者の申請により発行された嘱託書または要請書。

申立の告知または理由開示命令および申立て

仲裁手続

係属中または開始前

係属中または開始前

利用可能なディスカバリー

文書提出、デポジション

文書提出、デポジション

要件

· ディスカバリーの対象が、申請がなされた米国の管轄内に居住しているか、または存在すること

· ディスカバリーが外国の手続で使用するためのものであること

· ディスカバリーを求める当事者が「利害関係者」であること

· ディスカバリーの対象が、ニューヨーク州の裁判所の管轄下にあること

· ディスカバリーを求める当事者が、訴因が存在すると判断していること

· 特別な状況が存在すること

商事仲裁のためのディスカバリーの手段としての§1782の適用上の制約を踏まえ、当事者は、ニューヨーク州に所在する個人または法人に対するディスカバリーのための代替手段としてCPLR§3102(c)の利用可能性を認識しておく必要があります。CPLR § 3102(c)は、仲裁前であって被申立人となる者が特定されている場合と、仲裁中であって仲裁手続を通じては得られない情報を取得する必要がある場合の両方で利用可能です。ニューヨーク州と一定の関係がある仲裁手続を検討する場合、当事者または証人となる者がニューヨーク州に居住している可能性がある場合、このディスカバリーの利用を念頭に置いておく必要があります。


[1] United Nations Commission on International Trade Law rules (UNCITRAL Rules).