Skip to main content

骨太の方針2025 ―宇宙産業の成長に向けて―

Read in English.

I. はじめに

2025年6月13日、経済財政運営と改革の基本方針2025[1](以下「骨太の方針2025」という。)が閣議決定された[2](骨太の方針とは、政府の重要課題(政策の重点)や翌年度の予算編成の方向性を示す重要な政策文書である[3]。)。骨太の方針2025においては、宇宙政策を強化し、宇宙ビジネスの成長を支援するという政府の姿勢が明らかにされた。

骨太の方針2025は、今後の宇宙ビジネスに影響を与えることが予想され、宇宙ビジネス関係者にとって注目すべき事項と考えられる。

そこで、本稿においては、骨太の方針2025について概説する。

II. 骨太の方針2025

骨太の方針2025では、宇宙政策について以下の内容が記載され、宇宙政策の強化、官民連携の下での宇宙研究開発の推進及び宇宙ビジネスの成長支援を行うという政府の姿勢が明らかにされた。

特に、「スタートアップ」という文言が2箇所で用いられており、政府として、宇宙ビジネス分野におけるスタートアップの成長を重視していることが伺える。

項目

骨太の方針本文

宇宙政策の強化

宇宙基本計画[4]及び宇宙技術戦略(令和6年度改訂)[5]に基づき、宇宙開発戦略本部を司令塔とし、宇宙政策を強化する。

衛星コンステレーションの構築、次世代技術の開発・実証、スタートアップ等の衛星データの積極調達の推進

防災・減災・国土強靱化、安全保障にも資する地球観測や衛星通信の高付加価値化に向け、官民連携の下、衛星コンステレーションの構築、次世代技術の開発・実証、国内スタートアップ等の衛星データの積極調達を推進する。

ロケット開発支援、打ち上げ回数高頻度化

官民のロケット開発支援、打ち上げ高頻度化に取り組む。

与圧ローバ開発の推進

アルテミス計画における日本人宇宙飛行士の月面着陸実現に向け、与圧ローバ開発を進める。

地球低軌道活動の充実、深宇宙探査の研究開発、準天頂衛星の体制拡張

地球低軌道活動の充実、月や火星以遠への探査の研究開発、準天頂衛星の7機体制の構築及び11機体制に向けた開発を進める。

スタートアップ支援(宇宙戦略基金、政府調達)

宇宙戦略基金について、速やかに、総額1兆円規模の支援を目指すとともに、中長期の政府調達を進め、スタートアップ等の事業展開を後押しする。

宇宙活動法[6]改正

民間企業の新たな宇宙輸送を可能とする宇宙活動法改正案の次期通常国会への提出を目指す。

宇宙利用に関する体制整備

宇宙利用の拡大に対応した円滑な審査や準天頂衛星の持続的運用を可能とする体制整備、JAXAの技術基盤や人的資源の強化を推進する。


III. 骨太の方針2025の政策ファイル

また、骨太の方針2025の政策ファイル[7]には「宇宙分野を成長産業とする」と明記され、以下の取組及び目指す将来像が記載された。

内閣府宇宙開発戦略推進事務局によれば、世界のロケット打上げ回数は、2019年には年間97回だったものが2024年には年間253回へと飛躍的に向上している。その一方、日本のロケットの打上げ回数は2019年は年間2回、2024年は年間5回にとどまっている。ロケットの打上げは宇宙へのアクセス手段という意味で宇宙活動の基盤であるところ、宇宙分野における日本の国際競争力を強化するため、政府は、2030年代前半に年間30件のロケットの打上げを行うことを目指すとしている。

また、上記のとおり、政府は宇宙分野を成長産業とし、2030年代早期に宇宙産業の市場規模を8兆円とすることを目指すとしている。

取組

目指す将来像

Ÿ 官民のロケット開発支援、打ち上げ回数の増加

Ÿ 準天頂衛星システムの7機体制の確立[8]、11機体制に向けた開発支援

Ÿ 次期気象衛星の整備

Ÿ 宇宙服無しで搭乗可能な月面探査車(月面有人与圧ローバ)の開発支援

Ÿ 宇宙活動を行いやすくするための改正法案を次期通常国会に提出

Ÿ 国内におけるロケットの打上げ回数の向上2024年:5件/年→2030年代前半:30件/年

Ÿ 他国のGPSに頼らずに、精緻な位置測定を可能に

Ÿ 2029年度から、線状降水帯の予測精度を向上し、市町村単位で危険度を把握できる情報を半日前から提供可能とする

Ÿ 2020年代後半までに、日本人宇宙飛行士初の月面着陸を実現

Ÿ 民間による、有人を含む新たな宇宙活動を可能に

日本の宇宙産業の市場規模を拡大

2020年:4兆円→2030年代早期:8兆円


IV. おわりに

米国においては、2025年5月13日に、NASAのジョンソン宇宙センターを改修・近代化するために2034年9月30日までに10億ドルを配分することを内容とする「宇宙航空資源近代化ミッション法」の法案が提出された[9]。ジョンソン宇宙センターは有人宇宙飛行の訓練、研究および飛行管制が行われている施設であるところ、同法案が成立すれば、月や火星の有人探査の実現に向けた大きな支援になると予想される。

他方、EUにおいては、複数の加盟国が独自の宇宙法を制定して独自のルールを設けているところ、このような状況はビジネスや国際競争力確保の観点から好ましくないとして、2025年6月25日に、EU域内における統一ルールである「EU宇宙法」の法案が提出された[10][11]。EUは、同法案を成立させ、宇宙ビジネスについての単一市場を設けて国際競争力の強化を図ることを目指している(同法は、EU域内でサービスを提供するEU域外事業者にも適用される予定である。)。

このように、米国、EUをはじめ各国において宇宙活動・宇宙産業の競争力強化に向けた動きが加速している。

そのような中、政府は、宇宙分野を成長産業として2030年代早期に宇宙産業の市場規模を8兆円とすること(2020年時点の市場規模から倍増させること)を目指し、骨太の方針2025において各種の宇宙政策を記載した。また、政府は、宇宙輸送形態の多様化及び人工衛星の多様化に対応すべく、2026年の通常国会に宇宙活動法改正案を提出することを目指している。

これらの動きは、日本の宇宙ビジネスの更なる発展及び国際競争力強化への大きな後押しとなる可能性が高い。今後も、政府の宇宙政策及び宇宙活動法改正に向けた動きが注目される。


[1] https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2025/2025_basicpolicies_ja.pdf

[2] https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2025/decision0613.html

[3] https://www.kantei.go.jp/jp/headline/seisaku_ishiba/index.html

[4] https://www8.cao.go.jp/space/plan/plan2/kaitei_fy05/honbun_fy05.pdf

[5] https://www8.cao.go.jp/space/gijutu/honbun_20250325.pdf

[6] 人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律(平成28年法律第76号)

[7] https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2025/seisakufile_ja.pdf

[8] 衛星測位には、4機以上の測位衛星が必要である。7機体制の確立により、日本上空に常に4機以上の測位衛星が滞空するようになるため、他国のGPS衛星に頼ることなく日本の衛星のみで測位が可能となる。(参照:https://qzss.go.jp/overview/services/seven-satellite.html

[9] https://www.congress.gov/bill/119th-congress/senate-bill/1722/text

[10] https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_25_1583

[11] EU宇宙法についてはGT Alert: The EU Space Act: Une Révolutionに解説を掲載。