はじめに
2026年5月31日、米国商務省産業安全保障局(BIS)は、先端コンピューティング品目の輸出に関し、D:5国群(中国を含む)またはマカオに本社を置く事業体、あるいはその最終親会社が同地域に本社を置く事業体を対象とする場合には、当該事業体が物理的にそれらの管轄区域外に所在していても、BIS輸出ライセンスが必要となることを明確化するガイダンス(以下「2026年5月ガイダンス」)を発出しました。このBIS輸出ライセンス要件は2023年11月に初めて設けられ、BISが2025年5月に、2025年1月の「人工知能拡散に関する枠組み」規則(AI拡散規則)で導入された新たなコンプライアンス要件を執行しない方針を示した後も、引き続き完全に有効です。
背景
2023年11月、BISは特定の先端コンピューティング品目ならびにスーパーコンピュータ・半導体用途に関する暫定最終規則(以下「2023年11月IFR」)を公表しました。2023年11月IFRは、輸出管理分類番号(ECCN)3A090.a・.b、4A090.a・.b、および関連する「.z」品目を含む先端コンピューティング品目について、D:5国群またはマカオに本社を置く事業体、あるいは最終親会社が同地域に本社を置く事業体への輸出に対して、ライセンス要件を課しました。対象製品には、特定の先端コンピューティング用集積回路、コンピュータ、電子アセンブリ、およびそれらの集積回路を含む部品が含まれます。
2025年1月、BISはAI拡散規則に基づくより広範で国際的なライセンス制度の一環として、一部の品目のライセンス要件を輸出管理規則(EAR)の別条項(15 C.F.R. 742.6(a)(6))に移行しました。AI拡散規則はまた、2023年11月IFRを超えて規制を拡張し、特定のクローズドウェイトAIモデルの重みへの規制追加や先端コンピューティング品目について、仕向地に応じた新たなライセンス区分およびライセンス例外を導入しました。
2025年5月、BISはAI拡散規則の新たなコンプライアンス要件を執行しない方針(以下「不執行方針」)を発表しました。しかし、不執行方針はAI拡散規則の正式な廃止を意味するものではなく、先端コンピューティング品目に係る2025年以前のライセンス要件にも影響を及ぼしませんでした。このため、同方針の適用方法に関する業界全体の混乱から、意図せぬ違反が生じ得る状況が続いていました。こうした経緯から1年後となる今回、BISは、不執行方針が、2023年11月IFRに基づきD:5国群またはマカオに本社を置く事業体(その最終親会社が同地域に本社を置く事業体を含む)との取引に課されたライセンス要件を廃止または停止するものではないことを明確化しました。
主要なポイント
2023年11月のライセンス要件は引き続き有効 2026年5月ガイダンスにおいてBISは、受取人がシンガポール、アラブ首長国連邦、マレーシア等の第三国に所在するか否かを問わず、D:5国群またはマカオに本社を置く事業体、あるいは最終親会社が同地域に本社を置く事業体への対象先端コンピューティング品目の輸出には引き続きライセンスが必要であると明確に述べています。したがって輸出者は、ライセンス義務の評価に際して受取人の物理的所在地のみに依拠することはできません。
AI拡散規則の執行停止は想定より限定的 BISは、不執行方針がAI拡散規則の新たな仕向地別要件にのみ適用され、既存のD:5/マカオ本社要件に基づくコンプライアンス義務を免除するものではないと説明しました。このため、不執行方針をGPU輸出規制の広範な緩和と捉えていた企業は、直近の取引が依然として有効な当該要件に該当していないか、改めて精査する必要があります。
所有・支配に関する徹底したデューデリジェンスが不可欠 本ガイダンスは、輸出者が直接の顧客の所在地のみならず、当該顧客がD:5国群またはマカオに本社を置いているか、あるいは最終親会社が同地域に本社を置いているかを確認しなければならないことを強調しています。実務上は、先端コンピューティング取引の審査において、出荷前に親会社の所有関係および本社所在地の情報を特定する手続きの実施が必要です。
データセンター事業者向けに限定的な暫定措置を提供 BISは、先端コンピューティング品目をすでに使用しており、かつEARに概ね準拠して運営されている適正な(bona fide)データセンター事業者については、別途通知があるまで、当該品目の継続使用、保管、廃棄、またはサービスを停止する必要はないと述べました。この点に関しては、今後さらなるガイダンスの公表または規制改正が行われる可能性があります。
自主開示への言及は執行強化の予兆か 2026年5月ガイダンスにおいてBISは、EARの自主開示規定(第764.5条)に言及し、当事者に対する明示的な注意喚起を行いました。こうした言及は、過去の取引の見直しや対象となる先端コンピューティング品目およびD:5/マカオ関連取引相手の潜在的なコンプライアンス問題への迅速な対応を促す意図があると考えられます。
実務上の影響
本ガイダンスは既存の規制枠組みを改めて確認するものであり、先端コンピューティング品目の輸出者は、EARのライセンス要件を判断する際に、相手方の物理的所在地や直接の顧客の本社所在地のみならず、その本社および最終親会社を考慮しなければならないことを明確にしています。先端コンピューティング品目の輸出、再輸出、または移転に関与する企業においては、直近の取引、販売代理店との関係、および顧客受入手続を見直し、D:5/マカオ関連の取引相手を適切に特定し、必要に応じてBISの許可の取得状況を確認することが重要です。また、問題のある過去の取引が判明した場合には、自主開示が必要かどうかについても検討すべきです。