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安全保障環境の変化に伴う外為法改正の動向と実務への影響

1.  はじめに

2026年1月7日に財務省の関税・外国為替等審議会が公表した報告書(答申)を受け、国会で審議されていた「外国為替及び外国貿易法の一部を改正する法律案(以下「本改正法」)」が同年5月29日に成立しました。本改正法は、公布の日から起算して1年以内の政令で定める日に施行される予定です。

今回の改正は、2020年の改正から5年が経過したこと、および経済安全保障を巡る国際情勢の複雑化を受けたものです。実務上極めて影響の大きい「リスク軽減措置の法制化」や「日本版CFIUSの枠組み創設」、「潜脱(迂回)防止規定の拡充」など、対日投資の実務において留意すべき重要ポイントを解説いたします。

2.  本改正法の主要トピックスと実務への影響

 間接買収(海外親会社等の買収)への事前届出制の導入

指定業種を営む日本法人を直接保有する海外法人(「直接保有法人」)について、外国投資家が議決権の50%以上を取得する行為や、役員の過半数を外国投資家の関係者とする合意等を、新たに「対内直接投資等」の規制対象に加えます。

  • 一般の外国投資家:直接保有法人が日本法人の議決権等を50%以上保有している場合に限定して適用される見込みです。
  • 特定外国投資家:政府系ファンドや、情報収集活動への協力義務を負う外国法人等の場合、直接保有法人が日本法人の議決権等を1%以上保有する場合には、保有割合の多寡にかかわらず事前届出が必要となる可能性があり、投資家の属性によって大きな差が設けられます。

リスク軽減措置(Mitigation Measures)の法律上の明確化

現行実務では、安全保障上の懸念を解消するための「リスク軽減措置」を講じる場合、一度提出した事前届出書を「取下げ」た上で、措置内容を記載して「再提出」するという運用が行われていました。

本改正法では、この仕組みを外為法上に明文化します(改正後27条1項、28条1項)

  • 修正届出制度の新設:事前届出後、待機期間中にリスク軽減措置を修正する場合、取下げを行うことなく「修正届出」が可能となります(新27条の3第1項等)。
  • 待機期間への影響:修正届出の受理日から起算して14日を経過する日よりも前に待機期間の最終日がある場合は、受理日から14日を経過する日まで待機期間が延長されます。これにより、取下げ・再提出を要していた従来の実務に比べ、クリアランスまでの期間の合理化・短縮が期待されます。
  • 投資実行後の不履行ペナルティ:リスク軽減措置が講じられていない場合、明確に株式・持分の処分命令等の対象となります(新29条1項)。
  • 事後的な変更・削除手続きの整備:投資実行後(クリアランス取得後)、事情変更等により措置の変更や一部削除を求める場合、別途「事前届出」を行う仕組みが新設されます(新27条の4第1項等)。これに従わない場合も株式処分命令等の対象となります。

日本版CFIUS(省庁間合議)の法的枠組みの創設

外為法の投資審査は財務大臣および事業所管大臣(経済産業省など)が担っていますが、本改正法では、審査や事後介入(報告徴求)において必要があると認めるときは、内閣総理大臣(国家安全保障局(NSS)を所管)、外務大臣、その他の関係行政機関の長の意見を求めなければならないと定められました(新69条の4)。

従前は「事業所管大臣」に含まれていなかったNSS、外務省、防衛省といった安全保障の中核を担う省庁が、投資審査に関与する法的枠組みが正式に整備された点が重要です。 現在の実務でも財務省を中心とした意見聴取が事実上行われているとみられることから、投資家にとって直ちに大きな変化が生じるわけではない可能性があります。しかし、日本政府として投資審査をより厳格化・一体化していく兆候ともとらえることができ、今後の運用を注視する必要があります。

 非外国投資家を通じた潜脱(迂回)防止規制の追加・拡充

現行法の「外国投資家以外の者が、外国投資家の名義によらないで行う投資」への規制をさらに一歩進め、非外国投資家(国内投資家等)が行う投資であっても、以下の類型に該当するものは「外国投資家」とみなして外為法を適用します(改正後27条14項等)。

  1. 外国投資家の計算で行うもの(現行法でもカバー済)
  2. 契約や外国の法令等に基づき行われるもの(政令で定めるものに限る)
  • 外国投資家と、永続的な経済関係、親族関係、雇用関係などの「特別の関係」にある者が行うもの(政令で定めるものに限る)

影響の範囲: 本答申では、この潜脱防止規定の拡大(上記 iiおよびiii)については、「高リスク外国投資家」の支配・影響下にあるものに限定することが適当とされています。したがって、政令以下の規定においてその旨の手当てがなされる可能性が高く、一般の適法な外国投資家への影響は限定的となる一方、高リスク外国投資家にとっては網の目が大幅に狭まることになります。

3.  今後の見通しと企業の対策

本改正法は国会で成立したものの、実際の施行(適用開始)までには猶予があり、現在は施行に向けた準備段階にあります。また、実務上の重要要件の多く(高リスク外国投資家の具体的な範囲や、潜脱防止規定の対象となる契約・特別の関係の詳細など)は「政省令」に委任されています。そのため、実務への本格的な影響を見極めるには、今後順次公表される下位法令の具体的な規定を待つ必要があります。

また、本改正法に含まれていない点として、答申では「指定業種の合理化(サイバーセキュリティ分野の絞り込みなど)」や「事後モニタリング体制の強化・人員拡充」、「2028年度までのオンライン申請システムの刷新」なども提言されています。

クロスボーダー取引や対日投資、さらには海外ターゲットの買収(傘下に日本法人がある場合)を検討されている企業におかれましては、法律が成立し、約1年で施行されることを見据え、今後公表される政省令や告示、ガイドラインの具体的な改正内容を注意深く見守り、早期の段階からタイムラインやDD(デューデリジェンス)の手法を精査することが推奨されます。